2日目

 恐ろしいほどにいつも通りの一日であった。今朝のニュースも、始業前の担任の話も、ひどく淡白で、突き放されたように思えるほど私の期待と剥離していた。クラスメートはどうだろうか―――彼らは昨日の太陽もどきについて何か熱心に、やれ宇宙人からの攻撃だの、やれ外国の新兵器実験だの、どこからか仕入れてきた知識を互いに披露したのち、寝不足自慢や昨日とは別人の推しのアイドルについて語るのみだ。燃えた町など他人事であった。赤の他人が殺されて、いちいち気に病む人間などいない。昨日の太陽は果たしてソレと同格だろうか。私は誰もが気にも留めない出来事に、心を、奪われているのだろうか。今日はそのまま、1限も2限も3限も4限も5限も6限も過ぎていき、のこのこと家に帰ってきてしまったのである。玄関の扉を閉めた瞬間、家がいつもより10倍にも100倍にも狭く感じ、苦しくなってしまった。幼少期にエレベーターに閉じ込められる夢を見て、それからしばらくエレベーターに乗れなくなったことがあったが、その夢の閉塞感と全く同じであった。周りと感覚が違うことに気持ち悪さを感じる。地に足がついている感じがしない。だって、あれはまさしく人間の手に負える領域にいない、神の存在を証明するかのような光だったのに。まるで地球の破滅を予感させるような、ただただ冷たい光だったのに。

 そういうわけで、先ほどまでの私は人に、太陽もどきに恐怖していたわけだ。しかし、思い返してみれば、夕べの自分ものんきに漫画を読んでいたわけである。他国が戦争をしていても自分は何もできないわけで、特に無関心なのだから、平和ボケした人の危機感などこの程度なのかもしれない。ましていきなり降ってくる太陽に何をしようと無駄だろう。すっかり安心してしまった私は、2日目の日記を書いている。ただ、太陽もどきへの恐怖は思い出すたびにせりあがってくる。あの冷たい光だけは現実のものと思いたくなかった。意識を失ったという人々も、今はもう死んでいるかもしれない。

 ひとつ大事なことを書き忘れた。昨日は全く気付かなかったが、もどきではない本物の太陽が、きれいさっぱりなくなっている。なのに朝と昼は明るいままで、夕方も美しい夕焼けを照らし出していた。真っ赤に染まった太陽を除いて。この太陽誘拐事件についても、周りの反応は太陽もどきと大して変わらなかった。

 今日書けることはこのくらいである。日記を始めてから自分の一日の薄さに気づかされるとは思ってもいなかった。でもしばらくはのんびり生きていこうと思う。そのうち太陽もどきを超える大事件が起きる気がしてならないから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る