あの日、空から太陽が落ちてきた

中宮俊

新時代 1日目

 今日から日記を書こうと思うので、ということはこれが記念すべき1日目ということになる。1日目は一番ということである。なんだって一番になるのは気持ちの良いものなので、もしこの日記が続かなくても今が楽しいならそれでいい。さて、まずはなぜ日記を書こうとしたかというと、地球と私が文字通り未曽有の大災害に襲われたからである。そうなると、未来の学者たちはこぞって当時の文献を読みたがるだろう。飢えた野蛮な野犬たちは食えれば何でもいいと、ゲテモノ――もとい私の日記に喰らいつくはずである。そういうわけで、歴史に名を刻むことになった私は、おそらく1週間ぶりに(追記、1か月ぶりでした。)、金庫のように閉ざされた筆箱からシャーペンを取り出すことに成功した。ちなみに、さっきから妙に文章が馴れ馴れしく、語り掛けるような感じなのも、偉い学者さんが読みやすいように頑張っている古代人のイキな計らいである。まあ、そもそも日記の書き方がわからない。本当にこれで合っているのだろうか?

 さあさあこれから今日のことについて語っていく。鉄は熱いうちに打てと言うし、私もさっさとこの興奮を何かに書き留めたいのであるから。単刀直入に言うと、「まばたきすると、赤かった」である。これだけ言うと訳が分からないと思われるので、おととい作ったカレー(すごくうまい)のごとくじっくりと説明していく。平成31年、つまり2019年4月15日月曜日の正午に、突然空から赤い球体が落ちてきた。これはいわれもない事実である。始業の令で起立したまま、クラスの全員が立ち尽くしていた中、私は一瞬火事が起こったのかと勝手に慌ててしまい、椅子への着地地点を見誤りずっこけてしまった。これはいわれもないただの私の失敗談である。遠くからともはっきり見えるその球体は、言い換えるならば太陽そのものであり、そのまま日本のどこか一部分を覆い隠して行った。そして1分ほどたった後、太陽もどきは忽然と姿を消し、元の景色を取り戻したのである。ここから先はよくあまり覚えていないが、周りのクラスメイト達は年相応の爆発するようなリアクションをし、教師は私たちに下校命令を出した後、職員室にカンヅメであったようだ。あの燃えてしまった町はどうなったかというと、ニュースに出るわけでもなく、テレビは延々と地方のご当地グルメを映し出していた。しかたがないのでSNSを開いてみると、こちらは太陽もどきの話題であふれかえっていた。市民のうち何人かが意識を失い大混乱に見舞われているということで、まさに阿鼻叫喚である。しかし私のいるこの部屋は恐ろしく静かであり、待っていた漫画の新巻をちゃっかり買ってきてしまったので、だんだん興奮も冷めてきて、ずうっと漫画とにらめっこしていたのである。  

 とりあえず、今日書くことができるのはここまでである。さあ寝ようとなったところ私のわるだくみが炸裂し、よみがえった興奮と情熱をおもむろにふりまわして、今現在日記を書いている。そういえば、タイトルの新時代は何なのかというと、今日が時代の節目となるだろうと勝手に考えて作った私の造語である。相変わらずセンスのないところがいかにも自分らしい。明日も学校は通常通りあるようだ。なんとなくわかってはいたが、目覚まし時計を10時から7時にセットしなおし、今日はもう寝ることにする。

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