第6話

学校に行く。廊下を歩く。遠巻きの女の子が熱い視線を送ってくる。取り巻きの女が私に近づく。男たちが剣を含んだ目で私を見てくる。いつもの日常。


「影森くん。雑誌見たわ素敵だった」


 先月たまたま街を歩いていてると雑誌記者にモデルにならないかとスカウトされた。バイト代が出ると聞き、私は父の負担を減らすため引き受けた。そのファッション雑誌が昨日発売したらしく取り巻きの女が私を囲った。


──ああ。うんざりだわ。


 二階の教室の窓からグランドを眺めた。体育を終えた日和が友達と喋りながら昇降口に向かって歩いている。ふと、日和が私に気がつく。にへらっと笑い私に手を振ってくれた。ぱっと真新しい白い布を開いたような感覚が襲う。


──嬉しい。


 こんなことで心が弾むなんて。


 そして、すぐに私の心に渦がグニャリグニャリと回る。

 あんないい子に本当のことを打ち明けないで、いいのかしら……。


 こまま偽り続けていいのか。


 日和にだけは……。自問自答が襲う。

 でも私がスミレだと知ったら、女だと思っている日和が真実を知ったら、気持ち悪がられないだろうか。


──怖い。あの子にだけは嫌われたくない。


 でも……。


 私は教室の窓から日和に視線を向け、軽く会釈する。沈鬱する。それからずっと何度も自問自答した。日和に嘘を貫き通すか真実を話すかを。


 そして、出した答え。嫌われてもいい。やっぱりあの子には言いたい。だった。


──もう偽るのは嫌。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る