第5話
あれから数日が経った。いったい進み具合はどうなったんだろうか? どうしようもなく気になり、私はソワソワしていた。
──あぁ、現物が見たい。
朝。休憩時間。下校時間。何度か日和を訪ねようかと思った。でも階段で知り合っただけの人に何度も会いに行くのは変ではないだろうか。
──もうぅう。何か会う、いい口実はないかしら。
「影森君」
と。まさかの日和の方から訪れた。手には手作りの鞄を持っている。
「どうした」
「なんじゃ、迷惑かなって思ったんじゃけど、鞄のこと、影森君だけが話しを聞いてくれて、なんや嬉しくなってもうて、見せたくなったんよ」
──やったぁ。
「出来たのか」
日和は嬉しそうに頷き、私に突きつけるように見せた。
──えっと……。
日和の顔が、うふふふんっと、大きくUカーブするほど物凄く笑ってる。うん。
──これ完璧でしょうって顔よね。
私はその鞄を見て、目を細め呆れた。
「なんか出てるな」
がま口金具の間には紙紐を入れるのだが、その紙紐が、がま口金具から、かなりはみ出していた。
あれね。廃品回収などに本を縛る紐あるじゃない。それの紙バージョンの紐。
なんでこんな物が布から、はみ出ているのだろうか?
どう見ても押し込みが足りない。それを自信満々に日和はこの笑顔。こんなのはみ出てたら、気になるわよね普通。
私ははみ出た紙紐をぴっと遠慮なく引っ張る。すると紙紐が全部飛び出した。
「キャー。壊してまった」
「こんな簡単に取れたら、鞄にならないんじゃないのか」
「言われてみればそうじゃな」
──おい、おい、おい、おい、おーい。
突っ込みを入れたい。
「もう一度。スミレさん……だったか聞いてみろよ」
「でも……」
こんな状況のままだと気になって、私か鞄を作れないじゃない。
「大丈夫だって、きっと
日和は、笑って頷いた。
──その夜。連絡がきて私は紙紐と、がま口部分になる布を
「今度こそ、上手くいくはずよ。ふふふふ」
なぜだが笑いが止まらなかった。連絡をしたあとの心が温かくなる感覚が心地がよかった。
──ああ。なんて楽しいのかしら。
自分の趣味を惜しげなく誰かに教える。この時間が終わらなければいいのに。
「でもきっとこれで、もう終わりね」
学校でも日和と話すことはもう無くなる。またいつもの生活になるだけ。無口な一匹狼。
チクリ。
なぜか、まち針で心臓を突かれた様に胸が痛んだ。そして苛まれる罪悪感。
私は日和ちゃんまで騙し続けて生きていくだろうか。
いつの間にか、私の笑みが消え、急に氷水をぶっかけられた様に心が寒くなった。
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