第3話

 どうにも私は気になって仕方がなかった。モヤモヤする。

こんな気分の時は、やっぱり鞄作りをしよう!


 学校から帰ってすぐに、綺麗に整頓された6畳間の自室で、私は学校のストレス発散とばかりに鞄作りに勤しんだ。


「布はこれに決めた」


薄いピンクの布にひよこ柄を私は選んだ。


「開放だわ。なにも気にしなくていいって」


 偽り過ぎた生活に、いい加減うんざりだった。

 布を切る感触。まち針を刺す瞬間。ミシンをかけるカタカタと鳴る音。

 なんて心地がいいんだろう。


「出来た! 我ながら完璧。ささ。SNSにあげようっと」


 ショップで買った小さな照明を使って、出来上がった鞄の写真を撮る。綺麗に見えるように細かな修整をしてアップする。


「よし。あれ」


 誰かから連絡DMが届いていた。わたしはタップする。


──初めまして私は、ひよこと言います。

突然の連絡すみません。

スミレさんの作品のファンです──


「ひよこ!」


まさか日和ちゃん。


「まさかね」


 ドキドキしながらも、私は続きの文を目で追った。



──私にはずっと心臓病で入院していた5歳下の妹がいます。心臓移植をしました。

成功して退院することになりました。

ずっと離れ離れで育った私達ですけど、ようやく家族揃って暮らせるようになります──


 私は、はっとする。


「そう言えば、日和ちゃん。曾祖母ちゃんに育ててもらったって言ってたわよね」


 妹が心臓病ってことは両親は妹にかかりっきりだったのかもしれない。面倒を見きれなくて誰かに日和ちゃんを預けられたのかもしれない。


 もしも、この文章が日和ちゃんならば辻褄が合う。


「まっ。そんな都合よくないわよね」


 思い、DMに視線を戻す。


──妹は病室でずっと外に出かけたいと言っています。そこで退院祝いに妹におでかけ用の鞄をプレゼントしたいのですけど、心を込めて私も鞄を作りたくなったのです。でも上手くいかなくて。憧れのスミレさん、無理を承知でご伝授させて貰えないかと連絡させてもらいました──


「まあまあまあ。憧れだなんて」


 これが日和ちゃんなのかはわからない。

 でも。


「そんな理由なら全面協力するわよ」


 私はひよこと名乗る子に連絡を返した。

 どんな鞄が作りたいのか?

 大きさは?

 革製なのか? 布製なのか?


 それによって作り方が異なるからだ。


 するとすぐに返信が来た。

 がま口。

 縦10センチ。横16センチくらい。

 布


「ふむふむ」


 私はがま口金具を16.5センチの物をネット検索して、ひよこに教えパタンナー型紙を考え送った。作り方も丁寧に教える。


 これだけ丁寧に教えればきっと気に入った鞄が出来るはず。

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