第5話 氷解し始める謎
思い切って近づいて話しかけてみると、キャップを被りその上からパーカーのフードを頭にかけた男(?)が振り向いた。
私はあまりのことに声が出ずにその場に立ちすくむが、その人物……いや、ロボットでもアンドロイドでも……? いやAI? まあ、なんでもいい、驚いたことに、その人物には顔がなかった。
正確にはあったのだが、掴みどころがなく上手く表現できない。
のっぺらぼうのようであり、SF映画に出てくる典型的なロボット顔のようでもあり、人種が不明確な人間の造作をしているようにも見える、なんとも形容し難い顔だった。
頭の中で構築しようとするとボヤケてしまう感じで、モヤモヤとした気分だけが霧のように覆うもどかしさを払拭できずにいた。
彼……いやどう表現するのが的確なんだろう? 取り敢えずここはひとまず彼と呼ばせてもらうことにする。
すると彼が私の脳に直接響く声で語りかけてきた。
「いやあ、意外と早く原因にたどり着いたみたいですね。まあ、こちらとしても事前にクライアントからすべて情報は得ているので、別段驚きもしませんが」
「君はいったい……」
「ああ、私はあなたの……、そうですねえ、何から説明しましょうか。あなたの娘さんの、十三歳になる玄孫様にあたる女のお子さんからのご依頼なんです。当社でそのご依頼を請け負い、今私がこうしてあなたと対峙しているという訳でして……。ちなみにあなたからは来孫に当たるお子様でございます」
来孫? そんな言葉があるのか? 初めて聞いたぞ。
「私はさしずめ、玄孫様から高祖母様の願いを叶えて欲しいとの依頼を受けて、時間をジャンプしてこの時代に送られたきた代理人、或いは請負人といったところでしょうか。高祖母というのは曾祖母の親というお立場になりますか」
彼の、脳に直接語りかける話には不快で当分慣れそうにない。
「依頼といっても、ちょっとした悪戯といったところでしょうが、玄孫様から、お歳を召された高祖母様へのかわいらしい贈り物だと大目に見てやっていただけますでしょうか」
「いや、いや、十分肝を冷やされたし。こんな経験は二度と御免にしてほしいわ」
「ははは……、もっとも私共の暮らす世界では――私は人間ではなく人工知能ですので暮らすは正確ではありませんが――割とポピュラーな誕生日プレゼントなのです。クライアントの玄孫様が、高祖母様と昔話をしている中で思いつかれた、子供らしい悪戯だったと報告を受けております」
「ということは、私が今まさに経験していている不条理なループワールドを彷徨っている人が、私の他にもいるということなのか?」
「ええ、まあそういうことになりますか……」
未来からやってきたその代理人の役目を負った彼は、照れたような仕草で答える……ように思えた。
「私共の会社は、独自開発したループワールド・プログラム、通称『メビウス』を運営・販売・管理しておりまして、手前味噌になりますが唯一国から認可を受けた会社なのです。ちなみに人間を過去に送ることはご法度。もしそれを破った場合はキツイ行政処分が待っているという次第でして……」
時代は変われども、この国のお役所の硬直したシステムは変わってないらしい。
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