第4話 変化の兆し

 ちょうど時間がきたようだ。


 私は例の目眩を感じ、気がつくとベッドの上だった。

 勢いよくベッドから跳ね起き、要領よくテキパキと朝の身支度を整え、朝食も手短に済ませて、家を出る。


 自販機の前で立ち止まり、普段飲み慣れた方のコーヒーのボタンを押そうとするが、思うように手が動いてくれない。


 会社への通勤途中必ず缶コーヒーを買い求める自販機。何者かに缶コーヒーを買うよう強制されているのかも。この自販機の前に立つと、監視されているようで落ち着かない。


 何処にでもある自販機が異形のモンスターにも思えた。きっとこの自販機を破壊すれば道が拓けるに違いない。


 それからの私は、自販機とのバトルに明け暮れる日々が続いた。


 幾度もはね返されながら自販機に挑み続けるが、不思議と一度も諦めようとは思わなかった。私にとって家族は命を賭しても勝ち取る価値があるからだ。


 出勤の度、部下は心配そうに声を掛ける。

「どうしたんです、課長代理? 顔、アザだらけじゃないですか?」


 あるときは道端にあったコンクリート片を投げつけ、またある日は大型ハンマーで殴りかかって身体が宙に浮いたりもした。

 もう万策尽きたかと思われたとき、自分が当初の目的を踏み外していることに気づいた。

 敵は自販機では無い。私自身の家族への愛情を試されているんだ。


 もう沢山だ。家族との楽しい日常をなんとしても取り戻してやる。


 こうなったら体ごと自販機に突進するのみ。肩から目指す自販機のボタン目掛けて地面を蹴った。

 これで最後だという気持ちで、自販機に身体ごとぶち当たると自販機は大きく揺れ、私はその場に倒れ込んだ。


 ガラガラと音を立てて自販機から出てきたのはいつも飲み慣れている缶コーヒーだった。

 私は「フーッ」と大きく一度深呼吸をして、出てきた缶コーヒーを手にした。


 そして、またしても時間は逆回転する。

 何度目かの朝の目覚め。

 長女の一夏が部屋に来て、早く起きなさいと声を掛けると階下に駆け下りていく。

 朝のルーティンを済ますと、私は普段より早めに家を出た。


 自販機の前まで来ると、自販機の補充やメンテナンス業務をするベンダー企業の従業員が、自販機を開けて中を点検している最中に出くわした。


 これは、今までにない展開だ。

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