第3話 力強い協力者
果たして、何度目のループなんだろうか。
途中、話しかけられる見知らぬお婆さんには、こちらから先回りして「今日は熱くなりそうですね。くれぐれも熱中症には気をつけてくださいね」と捲し立てると、その老婆は目を見開いて、口をパクパクしながら遠ざかる私を見送っている。
犬を連れた老夫婦が近づくと、こちらから犬に近づいて「ワン! ワン!」と大声で鳴き真似をすると、犬のほうが尻込みして後退りする。老夫婦に『変な人』と思われようがどうでもいい。
遠くで鳴る消防車のサイレンの音も最早気にならない。
とにかくこっちは時間が限られているのだ。先を急ぐ。
電話をする時間がきて、連絡を牛川に入れた。
かけた回数もすでに百回には達しいているだろうか。
「これまでの話を整理してみると、ざっとこんな感じでいいだろうか? 君は何らかの人為的と思われる仕掛けによって、同じ時間を延々と繰り返す、いわゆるループワールドに紛れ込んでしまった。僕の助言によってどうやらその摩訶不可思議な世界は、自販機と消防車のサイレンの音が怪しいという見解を僕が君に伝えた。……でいいんだな?」
「ああ、そういうことで間違いない」
「自販機のことを詳しく聞かせてくれ」
「あのドケチババアが……。ああ、これは本人自らが周りに吹聴していることだから勘違いしてほしくないんだが……。その自称日本一のドケチババアが、仮にも客へのサービスのためとはいえ、値引きした缶コーヒーやジュースを、自分が管理する自販機で販売するなんてことは天地がひっくり返ってもありえない話だ」
「う~ん、それなら、益々君がそのループワールドから抜け出せる確率が高まったといえるな。まず、これを仕掛けた側は、唯一君だけが、自分の置かれている状況を認識できることを予め知っていたということだ」
「いったい、どういうことだ?」
「どうやら、トリガーの正体が薄っすら見えてきたぞ。始めは救急車のサイレンの音が気になったが、どうやらトリガーは自販機のボタンらしい。ボタンを押すことによって何らかの機能が発動して、一気に当日の朝へ舞い戻る仕掛けになっているんだろう。それによって、迷宮内で同じ時間が延々と繰り返され、君はそこから抜け出せずにいる可能性が極めて高い」
彼には珍しく高揚した声で得々と説明をしてくれた。
「うん、それは確かに怪しい」
「手品や妖術でもない限り、君をターゲットにして、誰かが人為的、意図的に今君がいる世界に迷い込ませたと考えるほうが自然だ。敵さんは、君がいずれループワールドの中だと気づくことを予め知っていたんだと思う。だったら、そこからの脱出する手段や手順が必ず準備されていると推測するのが合理的だし、その可能性は極めて高いとみる」
牛川は前回聞いた自説を繰り返すと、さらにこう付け加えた。
「そして肝心のループ脱出の手がかりというか手段だが、一番怪しいのは例の自販機だ。試しに、次回缶コーヒーを買うときは、飲み慣れたやつを買ってみてくれ。おそらくそれによって何らかの変化が生じるはずだ。そのことで君のいる世界の時間軸に、新しい扉が出現することを願っている」
「分かった、そうしてみるよ」
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