第159話  シンプソンダンジョン終息戦・東口③

 60階層の階層ボスは、不滅巨人と同じくらいの大きさで下顎から太く長い牙と全身を硬い鱗で覆われている大蛇のモンスターだった。


『シャァアアアアーーー!!』


 大蛇が尻尾を不滅巨人に向けておもいっきり振る。

 しかし、不滅巨人は避けるどころか受け止めようともせず、ただ立っているだけだった。

 そして、大蛇の尻尾が不滅巨人の顔にもろに当たる。


『シャッ、シャアアアアーーーー!!』


 しかし、ダメージを負ったのは大蛇の方だった。

 不滅巨人の身体の筋肉があまりにも硬すぎたため、自身が苦しむ事になった。


『……なんだ、今の軽い攻撃は?』


 それに対して、何も無かったかの様に立っている不滅巨人。痛みで地面にのたうちまっている大蛇に憐れみの目を向けている。


『シャアー……ジャアアアーーー!』


 今度は大蛇は濃い灰色のブレスを吐いた。

 それは、相手を石化する攻撃で、ブレスをもろにくらう。

 物理的にダメージを与えられ無いから状態異常攻撃に変えたのだろう。


『……………ふぅ。……残念だが、石化や毒などの状態異常の類の攻撃は、我を含めた同族邪魂シリーズには意味が無い』

『シャァ!!』


 モンスターに言葉は通じないはずだが、破滅巨人の言葉に大蛇は驚いた反応をした。


『もういい。つまらん』


 グシャ!


 不滅巨人はこれ以上やっても意味無いと判断し、大蛇の頭を踏み潰した。


『はぁ〜……ん?』


 しかし、トドメを刺した筈の大蛇は消える事はなく、むしろ潰れた筈の大蛇の頭の部分が動きだす。


『ほう! 再生か!』

『……ジャアアア!!』


 不滅巨人の言う通り、大蛇の頭は再生し、元の姿に戻った。

 しかしその分、魔力も減っている。


『主から蛇はしぶといと聞いた事があるが、本当のようだな』


 まさかの再生能力に驚く所かむしろ楽しそうにしている不滅巨人。

 それは、まだまだ戦いが楽しめる事に気分が高まっている。


『シャァァァアアアアアアアアアーーー———』


 再生のし終えた大蛇は、今度は全魔力を使い攻撃する大勢になる。


『最後に決死の攻撃か。…いいだろう。真正面から受けてたとう』

『————シャァアアアーーー!!』


 不滅巨人は大蛇の攻撃を逃げず受ける。

 その攻撃は、魔力を凝縮して。一点集中して口から放つ攻撃だった。

 そして、大蛇のその攻撃は、————












 パキッ!


 ————不滅巨人の胸を貫き、心臓部の核を見事に破壊した。

 勝った、と大蛇は思った。自身の最後の攻撃が相手に致命傷を与えたと。満身創痍だが、勝てたと思った。

 しかし、それは一瞬の事。


『見事だ』

『!!??』


 大蛇はこの戦いで一番の驚きの反応をした。

 大蛇の攻撃は間違いなく不滅巨人の核を破壊した。

 しかし、今大蛇の目の前には、何事も無かったかの様に不滅巨人が立っている。しかも、貫いた筈の胸の傷もいつの間にか無くなった状態でだ。


『まさか、我の核を貫く程の攻撃だとは思わなかった。天晴れだ』

『!!??』


 大蛇は目の前で起きている事が理解出来ずにいる。致命傷だった筈の攻撃が何故無くなっているのか。いや、本当は分かっているが、信じたく無いのだろう。


『褒美に教えてやろう。再生の力なら、我も持っている。主曰く、【超速再生】と言うスキルらしい』


 そう、不滅巨人も再生の力を持っている。

 しかし、不滅巨人の核は確かに壊れた筈だが、何故かそれも元通りになっている。

 そして、その答えは次の説明で不滅巨人が応える。


『だが、其方の破壊した核は、にすぎない。我を倒すには、それらを全て同時に破壊しなければならん』


 不滅巨人の核は全部で十二個有るようだ。

 何故かと言うと、それはちょっとした事故が原因だった。

 真白が当時、不滅巨人を造っている時、ちょうど体に『亡者の邪魂』を定着させている途中だった。

 しかし、そのタイミングでなんと大きな地震が起き、棚の上に置いてあった『亡者の邪魂』が落ちてきてしまったのだ。

 真白はその時、かなり焦って作業を中断し、本体を破壊しようとしたが、時すでに遅く、邪魂は体に定着してしまい、それで誕生したのが不滅巨人だった。

 しかし、幸か不幸か、不滅巨人は真白に対して忠義だった。

 しかも、当時の不滅巨人は真白よりも遥かに強く、一時期は真白は強くなる為に模擬戦の相手をしてもらっていたくらいだ。

 しかし、今では模擬戦程度であれば五分五分の戦いは出来るが、真白が全力を出せば不滅巨人は負ける。


『そして、我が何故『不滅』と呼ばれているかというと、我の核を破壊するのは現実的に不可能だからだ。……例外はいるがな』


 淡々と説明する不滅巨人。

 自分の弱点を話している事を自覚しているのだろうか。


『我の核は共鳴している為、一つでも無事ならば全て元通りになる。そして、我の体の中には核は九つしか無く。他三つはそれぞれ別の場所に有る』


 不滅巨人の身体の中には九つしかないらしい。

 何故かは真白でも知らないが、残りの三つは身体からは分離したのだ。それを真白は個々に厳重に保管している。

 一つ目は白岩家の真白の工房の地下2階に。

 二つ目は『異次元アトリエ』の真白しか入れない3階のフロアに。

 三つ目は真白のイかれた発想で不滅巨人の能力を使わなければ行けない場所に。


『喋りすぎたな。そろそろ終わりにしよう。せめて苦しまない様、一瞬で終わらせてやる』


 不滅巨人は体を半身に構え、右腕を後ろに引き、————


『…最後の方の戯れは、少し楽しかったぞ。…だが、我を本当の意味で倒せるのは、…我が主のみ!』


 ————大蛇に向かって右拳を突き出した。


 そして、大蛇は空の彼方へと飛んでった。

 超強力な衝撃波を放つ不滅巨人の拳を直接くらい、言われた通り、苦しまずに塵になって消えた。


『ハッ! ……まずい、…主の張った結界の道具を壊してしまった。…また小言を言われる』


 突き出した拳の衝撃波により、真白が七つも重ねて張った結界のアイテムが壊れてしまった。


『……はぁ〜。……取り敢えず、どちらかに向かうか。……………あの男、一人で片付ける気だな。もう一つは、……ほう、こっちの方は、面白そうだ』


 シンプソンダンジョン東口は、たった30分で終わってしまった。

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