第158話  シンプソンダンジョン終息戦・東口②

 現在、東口では異常な光景が広がっている。

 本来、モンスターは見境なく暴れて襲いかかって来る存在なのだが、今の東口ではそうではない。

 ダンジョンから溢れて来ているモンスターは全て不滅巨人に恐怖して襲いかかるどころか尻込みしている。


『どうした。来ないのか?』


 挑発する様に不滅巨人が言う。

 しかし、動く気配すらない。


『来ないのなら、こちらからいくぞ。……先に邪魔な中層の階層ボス共を殺るか』


 そう言って、不滅巨人は一体の中層の階層ボスに腕を伸ばして掌を向ける。


『フンッ!』


 グシャ!!


 掌を向けられた階層ボスは、不滅巨人が何かを握り潰す様にすると同時に頭が無くなった。


『どんどん行くぞ』


 グシャ!グシャ!グシャ!————


 モンスターの頭が次々と潰れていく。

 これを配信で観ている者たちは不滅巨人が何かをしている事ぐらいしか分からなかった。

 これは、不滅巨人の【座標移動】というスキルだ。

 このスキルは、目視出来ている所であれば、なんでもそのものの位置を一瞬で移動させるスキルだ。

 分かりやすく説明すると、手に持っているボールを10m先に見える机の上にテレポートの様に一瞬で移動させる。

 しかし、このスキルは移動出来るのだ。

 今、不滅巨人が移動させているのは握り潰した時に生じる力をモンスターの頭の位置に移動させている。


『……ほう。……一体、影に逃げたか』


 どうやらモンスターの中に【闇魔法】を使える相手が居たようで、『シャドーダイブ』で影の中に逃げ込んで行った。


『良い判断だ。しかし、相手が我なのが残念だったな』


 グシャ!


 不滅巨人が近くの影に向けて握り潰す動きをすると、影の中から先程影の中に逃げたモンスターが、頭が潰れた状態で飛び出てきた。


『すまんが、例えどんなに地の果てや異空間などに逃げようと、我の眼からはのがれる事はできん』


 邪魂シリーズには規格外が二体いる。その内の一体が不滅巨人だ。

 真白が何故不滅巨人ともう一体を規格外と定めたかというと、理由は二つある。

 一つ目は意思を持ってあること、そして二つ目は(真白命名)を持っていることだ。

 邪魂シリーズの殆どは真紅の眼だが、邪眼持ちの個体は金眼になっている。

 不滅巨人の邪眼は『亜空の邪眼』と言い、ありとあらゆる物理法則を無視して、空間の全てを見る事が出来る。

 その為、異空間や地球の裏側に逃げようとしても見つかってしまう。

 しかし、この邪眼の最も厄介なのは、これはスキルではなく元から備わっているということだ。

 真白にも【真理の天眼】が有るが、それはあくまでもスキルとして持っているものだ。その為使用する度魔力を消費するが、不滅巨人の邪眼にはそのような制限は何も無いのだ。


『……粗方片付いたか。…下層の虫もちらほら出てきているか。終わりも近いか。…はぁ〜』


 戦いが始まってからまだそこまで時間が経っていないのに殆どのモンスターを壊滅させてしまい、心底つまらなさそうにため息を吐く不滅巨人。

 残りの通常モンスターの掃討をしているが、若干の不満が有るのか、腕を振り払ってその衝撃で吹き飛ばしたり、近くに来たモンスターは踏み潰したりと、結構雑な戦い方をしている。


『はぁ〜……ん?』


 しかし、突然ダンジョンから僅かだが大きな気配を感じた不滅巨人。


『ほう。最後の大物か。…しかし、こいつの力はせいぜい下層程度だろうな。……はぁ、仕方ない。暇だから、少し戯れてやろう。この光景を観ている者たちも、我のこの力を観れば驚くだろう』


 そして、ダンジョンから階層ボスが現れた。

 そいつは、60階層の階層ボスで、深層手前のボスである。


『さぁ、邪魔な小虫(通常モンスター)は居ない。暇つぶしに遊んでやろう。好きなだけ攻撃するが良い。……どうせ、我は死にはせん』


 不滅巨人の戦いは最終局面に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る