第157話  シンプソンダンジョン終息戦・東口①

〈シンプソンダンジョン東口〉


『ふー……あるじ希有けうなことを言う。ああ言われると、全力を出したくなるではありませんか』


 やれやれといった感じに首を振り、南口の方角の空を見上げながら、自分の主である真白を見送った不滅巨人。

 真白がただのノリで言った言葉に感化されてしまいそうになる。だが、全力は出すなとの命令を受けているため、そこは気持ちを抑える。


『まあいい。全力を出さず、我の出来る範囲で派手に戦えばよいこと。………本来なら、あんな雑魚な虫共に本気など出す必要は無いのだが、あの玩具で覗いてる者達に我の力を見せつけるのが目的であるからな』


 普通なら傲慢な言い方に聞こえるが、仁王立ちで腕を組みながら圧倒的な存在感を放っているさまは不滅巨人の言葉が事実であると納得させるのに充分だった。

 因みに、真白は知らないが、不滅巨人は意外とおしゃべりだ。


『………ほぅ。……もう来たか』


 不滅巨人がぶつぶつと独り言を言っている間に氾濫の兆しが起きる。辺りの魔素濃度が僅かだが濃くなり、地響きが鳴る。


『では、主の期待に応えられるよう派手にいこうか。………ふぅ〜〜〜……………さて、ろうか』


 不滅巨人の戦闘への切り替え方は、どっかの誰かとそっくりである。



 ドーーーーーーン!!



 モンスターの氾濫が始まった。

 ダンジョンから溢れ出て来るモンスターの数は約40,000。結構な数である。

 しかし、殆どが上層のモンスターでちらほら中層モンスターが居るくらいである。おそらくまだまだ、溢れてくるだろう。

 普通なら、この時点で結構な長期戦になると判断されるが、不滅巨人は当然のごとく普通じゃない。


『まずは選別の儀と行こうか』


 モンスターの群れが不滅巨人に遅い掛かる。その距離はかなり早さで近づいているが、しかし、不滅巨人は動かない。


『………………すぅーーー……』


 そして、先頭のモンスターが約100mくらいの距離まで近づくと息を吸う。

 そして、————






『………………………活ッッ!!!!!!!』


 ズドッバタバタベチャバタバタベチャベチャバタベチャベチャベチャバタバタバタベチャバタバタベチャベチャバタベチャベチャベチャバタバタバタベチャバタバタベチャベチャバタベチャベチャベチャバタバタバタベチャベチャ!


 ————モンスターの群れの七割近くが、不滅巨人雄叫び一つで無惨に吹き飛んだ。近くに居たのに限っては原型すら残らなかった。

 因みに誤解の無い様に言っておくが、これはスキルではなく、不滅巨人の素の力だ。


『ふん。……やはり上層に住む虫は全て消えたか。中層の虫共も遠くに居たとはいえ、我の雄叫びの衝撃波で吹き飛び重症と。やはり深層のでなければ歯ごたえがないな。……主なら、この程度そよ風に当たってるくらいに平然としておるのに』


 不滅巨人は心底つまらなそうに呟く。

 今、溢れて来たモンスターや配信でこの状況を観ている者全てが、不滅巨人に恐怖を感じていた。

 もうこの時点で不滅巨人は真白に言われた通り、配信で観ている人々に充分に自身の力を見せつけた為、目的は達成したといえるだろう。

 しかし、一度火が付いた不滅巨人はこの程度では終わらない。


『さあ。いくさは始まったばかり。死にたい奴から掛かってこい。まとめて消してやる』


 邪魂シリーズ最強の不滅巨人の戦いはまだ二分も経っていない。悪夢に等しい戦いはまだ始まったばかりだ。

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