第152話  邪王凶鬼不滅巨人

「では、私はまず東口に向かいます。アトラ、後はよろしく」

「お任せください。マスター」


 レオと別れて、西側の仮説テントまで戻った真白は桐島や龍也に相良、テイラー総会長に声を掛け、空を飛び東口に向かう。

 西口以外はまだ氾濫は起きてない為間に合うだろうが、もういつ起きてもおかしくない。真白は急いで向かう事にした。


————————


〈シンプソンダンジョン東口〉


「まだ氾濫は起きてないか。でも、時間の問題かな。……とりあえず、アイツを呼ぶか」


 東口上空に着いた真白は、入口からやや離れた場所に降りる。


「うん。アトラが設置した結界装置も上手く作動してる」


 真白はダンジョンの入口を中心にした大きなドーム状の結界を見た。

 真白が先程アトラに頼んだ仕事は西口以外のダンジョンの入口に真白が製作した結界装置を張ってもらう事だった。

 この結界装置は、海老名ダンジョンのスタンピードの後、真白が気まぐれで作ったアイテムである。この装置一つで、本職のジョブの探索者よりも強力な結界が張れるアイテムだが、持続性は短く、約二時間しか展開出来ない。


「ここは結界を重ねて張ったけど…………結界七つで足りるかな?」


 そう、東口だけ真白は結界を七つも重ねて展開しているのだ。

 けれど、今から呼び出す邪魂シリーズはそうでもしないと大変な事になる程規格外なのだ。

 そして、真白はベルトポーチからいつも通り漆黒の水晶を取り出す。その水晶には《4》と書かれている。


「さぁ、いくさだよ。…邪魂シリーズ、No.4! 解放!!」


 いつものように、水晶から瘴気が溢れ、その瘴気が徐々に形を成していく。

 そして、そこに現れたのは、巨人だった。

 身長は5mほどあり、丸太の様な太い腕と脚。見ただけで分かる引き締まった体に硬そうな筋肉。肌は黒く、長い灰色の髪にの巨人の男が立っていた。


邪王凶鬼不滅巨人じゃおうきょうきふめつきょじん!」


 真白に呼び出され腕を組み仁王立ちしている不滅巨人(略:邪王凶鬼不滅巨人)は圧倒的な威圧と存在感を放ち、その眼光は全ての敵を滅ぼすんじゃないかと思うほどだ。その禍々しさは他の『邪魂シリーズ』より頭二つ三つ以上飛び抜けた力を感じさせる。


『ん?……………ここは、地上ですか。あるじ


 不滅巨人が喋り出す。

 以前、真白が龍也に言った、二体居る意思を持つ『邪魂シリーズ』の一体が、この不滅巨人だ。


「うん。取り敢えず、少しだけ戦って暴れて欲しいの」

『ふむ。……察するに、ダンジョンから出てくる虫共を滅ぼせばよろしいので』

「話しが早くて助かる」


 不滅巨人は知能も高いらしく、真白が言いたい事も状況を見てある程度は察する事が出来るみたいだ。


『……それにしても、珍しいですね。ここ意外にも三つも同じ様な巣が有るとは』

「ここのダンジョンは上層までは個別になってるの」

『そうですか』


 不滅巨人はダンジョンの入口の数が複数有る事に珍しさを覚えたが、しかし、そこまで興味は無いようだ。


『それより、あの方向には主に匹敵する力の者が一人、あちらは数が多いですが、その中に一人…いや、一体? と言うべきでしょうか。我ら同族邪魂シリーズとは少し違いますが、同じような気質を持つ者が居ますね』

「私の新しい仲間よ。それと、ここが終わったらどちらかの助けに向かって。そこは任せる」

『はっ。…仰せのままに』

「それと、全力は絶対に出すな。この近くは少ないけど重要な建物もあるらしいから」

『……………分かりました』


 全力を出すなと言われた不滅巨人は少し不服そうだった。


『それはそれとして、先程から気になるのですが、あそこに浮いているカメラ玩具はなんですか?』


 ふと、不滅巨人が視線を上空に上げ、結界の外側からこちらを撮影しているドローンに目を向ける。


「アレはこっちの様子を遠くから覗く物よ」

『……見せ物にせれてるのですか。…破壊しますか』

「やめなさい。一応戦いの記録として残す為の物でもあるから」

『しかし、命を賭けた戦いを見せ物にするなど我は愚かとしか思えません』

「確かにそうだけど。…そういうのを娯楽として見る人達も居るの。我慢して」

『……ハァ〜』


 不満はあるようだが、不滅巨人は納得した。


「なんだったら、これを利用して、貴方をやる気にさせて上げる」

『……はい?』


 真白の唐突な言葉の意味が分からない不滅巨人。

 だが真白はその言葉の後に、不滅巨人に真っ直ぐ体を向け、堂々とした佇まいで向き合う。その姿はまるで、王が家臣を見つめる様な感じだ。


「不滅巨人! 貴方の力を持ってダンジョンから氾濫してくる全ての敵を滅ぼせ! 遠慮は要らない。私の信頼する最強の忠臣として、今この場を見ている全ての人類に貴方の力の一端を見せつけ畏怖させよ!!」

『ッ!! ……御意ッ!!』


 真白はどっかから持ってきた漫画の台詞を自分なりにアレンジしてカメラの向こうで観ている者達に見せ付ける様に言った。

 その言葉を聞いた不滅巨人も真白の鼓舞に心打たれ、片膝を突き頭を垂れる。その目はやる気に満ちていた。


「それじゃあ、私は行く。後は任せた」

『はっ! ご武運を!』


 そして、真白は南口に飛び立った。


—————————————————————


邪魂シリーズ


No.1 : 堅牢要塞瘴壁騎士 通称:瘴壁騎士

No.2 : ?????

No.3 : 瘴雲滅雨魔喰い烏 通称:魔喰い烏

No.4 : 邪王凶鬼不滅巨人 通称:不滅巨人

No.5 : ?????

No.6 : 黒炎瘴獄魔刀侍 通称:魔刀侍

No.7 : ?????

No.8 : ?????

No.9 : ?????

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