第149話 情けない……(桐島とテイラー)
◯仮説テント(西口側)
「『戦える探索者の数は正確にどれくらいだ』」
「『3,156,729人です』」
「『『白の錬金術師』が作った麻痺睡眠耐性を付与したアイテムは行き渡ったか』」
「『はい。現在探索者たちはそれぞれ割り振られた場所に向かい準備しています』」
「『もういつ氾濫が起きてもおかしく無いぞ。急げ!!』」
現場は慌しかった。
西口側は戦力的に余裕があるが、人数が多い分準備に時間が掛かる。
「『そちらの準備は順調ですか。桐島殿』」
「テイラー総会長。こちらはいつでも大丈夫です」
大方準備が終わっている桐島に全体の指揮を執るテイラーが話し掛ける。
「『そうですか。貴国の協会やクラン、それに『白の錬金術師』の協力に心から感謝する』」
「当然の事です。……それに、一昨日の会議に私は居ませんでしたが、彼女がとんでもない発言をしたようで……」
「『ハッハハハ! なに、アレぐらい大したことない。むしろあの場であのような案を出す彼女は肝が据わってる!』」
「しかし、一応本国の代表として……」
「『桐島殿、あの場では確かに貴国代表で会った。でも、彼女はまだ高校生の子供だ。なのにまともな案も出さずグダグダと言い合う事しか出来なかった者たちと比べればマシだ。むしろ感謝したい』」
「は、はぁ〜……」
「『むしろこちら側が彼女に謝罪したい。幹部の一人が、彼女に酷いこと言ってしまった。誠に申し訳ない』」
テイラーは一昨日の作戦会議であった事を思い出し、桐島に謝罪する。
「いや、しかし現に、アンダーソン殿にはかなりの負担を掛ける事に……」
「『それを言うなら彼女の方が何倍も負担が大きいさ。……他国の為にここまでしてくれいるのに……』」
「テイラー総会長……」
「『言い訳になるが……総本部内には探索者の為のあらゆるサポートや育成などをする通例派と、ダンジョン資源やエンタメなどで金儲けを考える利益派の二つあってな。……後者は少数なのだが、ほぼ全員探索者ではなく役員上がりの者ばかりで、探索者を金儲けの駒としか思っておらん。アンダーソン殿が物凄く毛嫌いしている連中だ』」
「そ、そうですか………」
後半の言葉にはやや嫌味も混じった声でテイラーが言う。
「『以前のSS級ダンジョンのレイドボス戦だってそうだ。あやつらはダンジョン探索を見せ物としか思っていない。こちらは命を掛けておるのに』」
「そうですな」
「『……話しがそれたな。………貴方には話すが、私は自分が情けない。自分も元探索者でSSランクで強い自信はあった。…だが現実は、アンダーソン殿と白岩殿のSSSランクと比べると天と地の差がある。……桐島殿、貴方もそう思いませんか』」
「…………………………………………………」
テイラーの言葉に桐島は何も言えなかった。それは、桐島自身も感じているからだ。
「『アンダーソン殿はともかく、白岩殿のようなまだ未成年の女性に比べて、自分の出来る事は大した事無い。……私は、自分がこんなに情けないと思ったのは初めてだ……』」
「……………そうですなぁ。……本当…情けないです……」
桐島とテイラーは同じ元SSランクで協会のトップの立場だ。お互いに通じ合うものがある。だから、自分の情けなさを感じているのだろう。
けれど、現実は残酷だ。桐島とテイラーがどんなに情けないと思ったところで、SSランクとSSSランクの壁の高さは次元が違う。
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