第139話  激怒

 レオが威圧を込めた言葉で全員黙らせた。しかもただの威圧ではない。体に蒼白色の魔力を可視化させ、会議室の机を破壊し、床にヒビまでいれたのだ。


「『さっきから貴様ら好き勝手言う割には碌な案も出ずに仕舞いには短期戦や長期戦だの言い争いやがって。その間に時間が過ぎ去っているのが分からねえのか』」


 レオが早口で喋る。周りもレオの豹変に驚いている。しかも、一番親しいソフィーですら怯えるくらい今のレオはキレていた。


「『それに、彼女は此方の都合で救援をお願いして態々遠くから来てくれたんだぞ。しかも、彼女の場合特別で、本来なら依頼を受けるかどうかは自由に決められるんだぞ。俺の様に半強制ではないんだぞ。それは貴様らだって分かっているよな』」


 そう、真白はSSSランクになる時依頼の受注をするかは自由になっている。これは真白がまだ未成年というのもあるが、それ以前に協会の勝手な都合でフリーから探索者登録をさせる事になったからだ。その為、他の三人とは違い真白はその辺は特例だ。この事は各国の協会の上層部なら知っている。


「『しかしアンダーソン…我々にもプライドがあるのだぞ。…他国の者が我々の最高戦力のそなたを————』」

「『ア゛ァァァ!! 我々の最高戦力だ……ふざけてんじゃねぇぞ…俺はいつお前らのになったんだ。……ふざけんじゃねぇー…俺は物ではなく人だぞ…立場をを分からず馬鹿な事言ってるのは貴様なのが分かってねぇのか!!』」


 レオが怒りが更に増した。物扱いされた事に相当激怒したらしい。まさに火に油だ。そのせいでレオが覇気を放ち、今度は室内の壁にヒビがはいる。

 真白以外全員がレオの覇気に飛ばされて床に尻餅を着いたり軽く後ろに飛ばされた。真白の付き人の佐藤は真白が守ったが、腰を抜かして体が震えて涙目だ。


「『それに、彼女は4つのうち半分の2つを一人でやると言っているんだぞ。自国の事にしかもまだ高校生にそんな案をださせてる時点で何がプライドだ! …………この過激派の老害筆頭が(ボソ)』」


 レオの威圧と言葉(ほぼ威圧)に声を出さず黙りっぱなしの者達。


「(器用だなー)」


 しかし、真白にはそのレオの威圧はそよふく風だ。それもそのはず、レオはこれでも威圧を雀の涙くらいにまで抑えている。それでも下手をしたら室内の壁、窓、天井、床が跡形もなくなってしまう為、大気中の魔力に干渉して室内の壁などの強度を高めている。それでも壁にヒビがはいったがやらないよりましだ。

 真白は自身の魔力が強すぎるが為、自分に出来ない芸当を器用にやったレオを凄いと思っていた。


「『……もうこれ以上の話し合いは無意味…いや、何の価値もない。作戦は彼女の案でやる。もし、まだ文句が有るなら今回の件、俺は一切手を貸さない!』」

「「「「「「「『!!!!』」」」」」」」


 今レオが言った言葉には、流石に真白も驚いた。まさかSSSランク探索者がこんな大きな事件に手を貸さないと言うのだ。最悪何かしらの罰が降る。しかし、こんな状況にオセアニアの英雄が何もしないとなると、全体の指揮にも大きく影響がでる。だから周りはもう頷く事しか出来ないのだ。


「(……なりたての私と違って…威厳があるなー。…流石世界で最初のSSSランク。貫禄が全然違う)」


 真白はレオに敬意と羨望の目を向けていた。そう思えるほど、レオの姿が堂々としている。


「(手を貸さない発言は驚いたけど、罰はそんなに重くないだろうなあ。来月頭に例のSS級ダンジョン深層ボス攻略が発表されてるし、下手したら他国に引き抜かれたり亡命されかねないからね。それを分かって言ってるのかも)」


 真白はレオの言葉をそう解釈したが、実際はレオがただ頭に血が登って考えなしに言っただけである。


「『白岩真白……救援に来て頂いたのに不快な思いをさせただろう。本当にすまない』」

「いいえ。気にしていません。元々自分が無茶な案を出したのが原因ですから」

「『いいや、君は最善の案を出してくれたと俺は思ってる。…それに、君が一人で二つも請け負うのに俺だけリスク無しに周りに囲まれて戦うこと事態間違っているしな。周りがこんな状態だから、俺が代表して頭を下げる。誠に申し訳なかった』」


 レオが真白に深々と頭を下げた。


「あ、頭を上げて下さい! お気持ちだけで私は十分です!!」

「『いいや、間違った事をしたら相手が子供だろうと頭を下げる。それが人として正しい事だと俺は思っているんだ。どうか謝罪を受け取って欲しい』」

「わ、分かりました! しゃ、謝罪を受け取ります! だから頭を上げて下さい!」

「『感謝する』」


 どうやらレオは意外に人情に厚い様だ。


「『色々あったが、会議の続きをしよう』」

「はい」


 こうして作戦会議が再開されたが、それは終始真白とレオの二人だけで行われた。

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