第138話 妙案
真白がダンジョンの特徴を聞き終えてから少しして、主要人物がやっと揃った所で本格的に作戦会議を始めた。
しかし、現在二つの意見で割れている。最終的にスタンピードの終息させるのは一致しているのだが、問題はその方法だ。
「『ここは短期決戦で攻めるべきです!』」
「『いいや! 長期戦にして被害を抑えるべきだ!』」
「『そしたら結界の維持が大変になる!』」
「『そっちこそ短期戦にして探索者達を特攻させて無駄死にさせるつもりか!』」
「『それを言ったら戦力を分散させて探索者の負担を大きくさせるつもりですか!』」
短期戦か長期戦かの意見が分かれている。
全体的に、オセアニア総本部は中立で、短期戦派が4割、長期戦派が4割、2割が中立になっている。
ふと、真白とレオの目が合った。
真白とレオはさっきからただ会議を聞いているだけだ。幾ら二日の猶予があるとはいえ、こうしていては時間が勿体無いと、真白とレオの内心同じだ。
「『……アンダーソン殿、貴方はどうお考えですか?』」
ふと、総本部の役員の一人がレオに問い掛けた。その目は「この状況をなんとかしてくれ」と訴えてる。
「『俺が案を出したらその案の方向で進むでしょう』」
しかし、レオは我関せずだった。自分の発言がどれ程影響するか解っているからだ。
「『……………白岩殿…貴女はどう思われますか? SS級ダンジョンのスタンピードを終息させた貴女の言葉を聞きたい』」
「…………………………………………………」
今度は真白に質問がきた。
真白も本当は我関せずで中立になりたいのだが、今は日本を代表してこの場に参加している為そうはいかない。けれど、真白は若いとはいえSSSランクだ。この場での発言すれば作戦内容が大きく傾く。会議室の各国の代表全員の目が真白を見る。その中にはレオも含まれていた。
「…………………………………………………」
ここで下手な発言は許されないと真白は思っているが、実は真白には一つ妙案があった。
「若輩者の私の案でもよろしいのですか?」
「『ああ』」
どうやら彼も状況を解っているからこそ、さっさと終わらせたいらしい。
「では、私の案を言わせて頂きます。……その前に一つ……アンダーソンさん、質問よろしいですか?」
「『ん? なんだい』」
真白は発言する前にレオに問い掛ける。
「あまり褒められた事ではないですが、聞かせてください。……貴方は状態異常の『無効系』スキルを持っていますか?」
「『ほ〜ぅ………』」
レオも真白から自身のスキルの質問がきて驚いた。探索者どうしがスキルに関しての事を聞くのはあまり褒められたことではない。だがレオは真白がそれを解っていてこの場で訊いてきたということは、それほど重要な事なのだろうと思った。
「『良いだろう。……てか、状態異常の『無効系』スキルに関しては然程秘密にしてないし、知ってる者も多いから別に平気だ』」
レオは真白の質問に快く応えくれるようだ。
「『俺が持っている状態異常の『無効系』スキルは【麻痺無効】、【恐怖無効】、【混乱無効】、【発狂無効】の4つだ』」
まさか4つも持っていることに真白は少々驚いたが、だが、その中にちょうど良いのがあった。
「そうですか。……ではアンダーソンさん、最後にもう一つ訊きます」
「『なんだ』」
「北口の氾濫したモンスターを一人で相手して時間稼ぎは出来ますか?」
「『!!』」
「「「「「「「『え!?』」」」」」」」
真白の最後の問いにレオは驚く。それはこの場に居る者達全員同じだ。その目は他国の最高戦力を危険なS級ダンジョンのスタンピードに特攻させるなどどうかしてると。中には真白の発言に快く思わない者もいる。いや、殆どがそうだ。付き添いの佐藤も桐島から真白は頭がイカれてるとは聞いてはいたが、ここまでとは思っていなかった為真白の発言に焦った。下手をしたら国際問題になるからだ。正気の沙汰ではない。
「『おい! 本気で言っているのか!?』」
「はい」
余りにも侮蔑している質問に総本部の一人の男が怒声を上げた。しかし、真白はなんの迷いも無く肯定する。
「『おい、小娘! 幾ら貴様の立場が高かろうとその言葉は聞き逃す事はできんぞ!』」
男も真白に対して言葉と態度が悪くなっていく。まあ分からなくもないが高校生相手にしては過激すぎだ。
だが、最悪の空気になりそうな所を————
「『フッ! …フッフッ! フッアハッハッハッハー! フッアハッハッハーーー!!』」
————レオの大笑いで場が治る。レオの笑いに周りは何事かと思った。
「『アーー…いや〜こんなに笑ったのは久しぶりだよ! …白岩真白。……君、なんて最高な案をしてくれるんだ!!』」
だが、レオの驚きは他とは違い、好奇心でいっぱいだった。
真白はレオの態度で確信した。いや、質問する前からほぼ分かっていた。
それは、SSSランク同士だからこそ通じるものがある。それは、————
————SSSランク探索者は、戦いに飢えている戦闘狂だ。
「『生産職とはいえ、やっぱり君もこちら側なんだな!!』」
「当然ですよ」
「『いいね! いいね! …で、君はどうするんだい?』」
「勿論私も単独ですよ。てか、私は周囲を巻き込む前提の戦い方なんで、集団戦は無理です」
「『お〜それはなかなかクレイジーだ。因みに君は何処をやる?』」
「東と南をやります」
「『二つもかい!? どうやって?』」
「私には、最強の忠臣がいるので」
「『へぇ〜…最強…ね……』」
レオは真白との話しに楽しそうに笑っているた。それは真白も同じであった。
「『いいだろう! 白岩真白…その案、俺は大賛成だ!』」
「『アンダーソン! 何を言っている!』」
「『レオ! 貴方正気なの!!』」
先程の態度の悪い男とソフィーが立ち上がり叫ぶ。他にも周りは反対する様な声や視線を送っている。
「『アンダーソン、考え直せ! 幾ら貴方でも無理がある!』」
「『そうか〜…俺はむしろこれ以上ない程良い案だと思うがな』」
「『レオ、ふざけるのもいい加減にして! 流石に無謀過ぎるわ!』」
「『ソフィー、今まで俺がどんだけ無謀な事をやってきた。今更いまさら〜』」
レオの中ではもう、真白の案でやると決定している為周りの言葉を適当に返している。
「『ッーーー! おい、小娘! 貴様、我々の最高戦力のアンダーソンを単独でダンジョンの入り口を一つをやらせるなど、一体何を考えている!!』」
「私は単独で二つを請け負うのですが」
男が机を叩きつけながら真白を睨む。明らかに敵意を向けている目だ。真白も真白で珍しく嫌味を込めて言い返す。
その男の目を見て、流石に不味い思った一部の冷静な者達が焦った。真白に敵意を向けてきた者達がどうなったのかを思い出したからだ。しかし、例え抑えてようとしても今の男の様子からは無理だろうと周りは思っており、どうしょうかと焦りが増すばかり。
まさに一触即発。そんなの時————
「『もういい…黙れ』」
「「「「「「「『ッ!!』」」」」」」」
————レオの静かな怒りが爆発した。
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