第125話  ハプニング!

 1月下旬、三年生の受験もだいぶ落ち着いてきた頃、真白は学年末テストを控えている。

 しかし、その前に学校行事の一つ、球技大会が待っている。真白の学校は学校行事での結果も僅かだが内申点に入る為生徒のやる気はかなり高い。

 真白は今体育の授業で自分の参加種目の練習を切りがいいところでやめて、現在————


「そっち行ったよ!」

「パス回して!」

「ブロックして! そっちはパスコースふさいで!」


 ————佳織が参加するバスケの練習を見学している。


「おー、佳織張り切ってる。なんか前より動きが良くなってる?」


 真白が佳織の練習試合を見て呟く。

 ちなみに、真白が参加するのは卓球のシングルだ。チームワークが壊滅的な真白が唯一まともに出来る種目だ。


「やっぱ佳織はチーム戦は上手いね。上手くチームの中心になって指示を出して、足りない所は自分がサポートする。私には出来ないなあ」


 佳織の活躍を見ながらそんな事を言う真白。

 ちなみに、体育の授業では探索者と一般人に身体能力の差が出てしまう為、探索者には以前真白が佳織に特訓を施す時に使った魔力封じの腕輪をする事になっている。

 だが、真白の魔力はそんな量産品で抑えられず、それどころか魔力が漏れ出て破壊してしまう程の魔力量である為、真白は自作のを使っている。


「あの……隣いいですか?」

「!……はい。……どうぞ」

「失礼します」


 真白がぼけっとバスケを見ていると、声を掛けられた。声を掛けてきた相手は転校生の月下輝夜だ。彼女も真白と同じで卓球を選んでいるが、彼女はダブルスで参加だ。

 ここだけの話し、転校して来てから数日で彼女は学校に打ち解け、今では一部の男子生徒から『輝夜姫』なんて呼ばれている。


「えっと。…ちゃんと話すのは初めてでしたね。知ってると思いますが改めて、……私、月下輝夜と言います。よろしくお願いします」

「……白岩真白です」

「はい、よく知っています。こうして話す事が出来て嬉しいです! あ! 私の事は輝夜と呼んでください!」


 彼女——輝夜はその綺麗な声を若干高くしながら真白の近くへ寄ってきた。


「白岩さんのことは前の学校でも話題がつきませんでした! 私達と同年代で生産職でありながらSSSランクになった実力。そして不遇と言われ続けてきたジョブの錬金術師で様々な革命的な発明をして世間の生活向上や探索者に有用なアイテムなどを作ったと!」


 輝夜は目を輝かせながら真白に近づく。

 真白は輝夜がグイグイ詰め寄って来るのに対して真白は少し気後れる。輝夜の様な相手に距離を詰めてくるタイプは苦手だからだ。

 しかし、真白は輝夜が悪気があって距離を詰めて来てるのではないのを雰囲気で感じた為なかなか相手との距離感が掴めない。


「あ! ごめんなさい。つい興奮してしまいました」

「…いいえ。…大丈夫です」


 輝夜も相手との距離を詰めすぎたのを理解したからか、自分を落ち着かせる。


「……その…白岩さんに一つ訊きたい事があるんですけど……いいですか?」

「……どうぞ」


 先程と違って、輝夜の顔が真剣になった。


「あの、白岩さんは錬金関連の他にも、調薬や鍛治、裁縫などの他の生産関連も本職以上の腕前ですよね」

「いいえ。…私の場合はかなり特殊です。……技術面では本職の方が上です」

「いいえ。今まで白岩さんが発明していた物を知ったら誰もがそう思いますよ。……それに、他にも色々と研究もしてるんですよね……」

「まあ……そこそこ……」


 輝夜の言いづらそうな顔をしているが話しを続ける。


「あの……私も探索者なんですけど……実は私————」

「月下さん! 危な〜〜〜い!!」


 その時、真白はその叫び声を聞いた瞬間、世界が止まった感覚になった。いや、正確には動きが凄くゆっくりになった感覚だ。例えて言うなら思考だけがゾーン状態になり、周りの全てがスローモーションに見えている。

 今、真白が見ている景色は、恐らくロングパスをしようとした子が叫んでいる姿が遠くに見え、こちらの方向に凄い回転が掛かったボールが飛んでくる。その軌道は綺麗な弧を描いている。直撃までの距離は1mもない。

 本来なら、真白が今から動いてボールを取る事が出来るが、今は魔力封じの腕輪(真白作)をしている為身体が反応鈍い。

 そして、声に反応した輝夜がゆっくり振り向く動きも視界の端で見えた。


「(あっ……これ顔に直撃する)」


 その為真白は迫り来るボールが輝夜の顔に直撃するのを見る事しか出来ない。


 バン!!


「ゔっば!!」


 そして、輝夜の顔にボールが直撃し、本人はそのまま倒れて気を失った。

 それと同時に真白の身体も元に戻る。


「ちょっ! 大丈夫!!」


 感覚の戻った真白が倒れた輝夜に駆け寄る。真白から見た感じ、どうやら少し強く頭を打っただけで、気を失った事以外は問題なさそうである。


「とにかく、保健室に運ぼう」


 手の空いてた真白は輝夜を保健室に運ぶ。今の体育の授業は今日の最後の授業なので、この後の授業は何も無い。

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