第120話  特訓①

「それじゃあ、最初は基礎訓練からしてもらう!」

「はい!」


 真白の声に佳織は返事をする。普段は仲の良い幼馴染だが、今は教官と新兵の様だ。


「まず、最初は————」


 そして真白が最初に施す特訓は————













「————走れ!!」

「はい!……………え?」


 走る。

 真白が最初に施すのは訓練では当たり前の内容だった。


「まずは、この訓練場を走ってもらう!」

「?? ……え?」

「返事は!!」

「!? は、はい!!」


 あまりにも基本的な訓練内容に少し困惑した佳織だが、取り敢えず真白の指示に従う。

 だが、走るだけならせいぜい訓練場の陸上トラック一周1kmを長くて20周ぐらいだと思った佳織、【身体強化】スキルを使えば若干疲れる程度でウォーミングアップだろうと考えたが、頭のいかれた真白がそんな普通な訓練をする筈がない。


「まずはこれを腕につけろ!」


 そう言って真白は佳織にあるアイテムを渡す。


「……………え?」


 それは、使用者の魔力を封じて、身体能力をただの一般人にしてスキルを使えなくするアイテム、『魔力封じの腕輪』だ。


「これを腕につけてまずはこの訓練場を今日は取り敢えず軽めで80周してもらう!」

「えっ!!」


 佳織の驚きも当然だ。訓練場を80周、つまり80kmを【身体強化】無しで走れと言うのだ。その距離はフルマラソンの倍近くある。一般的の女性のフルマラソンの平均タイムは約5時間だ。つまり、真白は佳織に10時間以上走れと言っているのだ。

 しかし、何よりも驚きなのが、その距離で軽めなのだ。どうかしている。


「…真白…【身体強化】とかは使っちゃダメなの?」

「ダメだ! 素の身体能力で走ってもらう。ほら! さっさと準備しろ!!」


 いきなりの超長距離の数字に驚く佳織。しかし、やると決めたからにはやるしかない。

 そして、佳織はスタートラインに着く。


「あと、もう一つ言っておくことがある」

「え?」


 どうやらまだ何かあるようだ。


「今からこの訓練場を走ってもらうが、今からここは訓練場ではなくだと思って走るように」

「はい? そ、それってどういう意味?」

「位置について!」

「え! ちょっ!!」

「よーい! …スタート!!」

「えっ! もう!」


 真白の言った意味がよく分からなかった佳織だが、とにかく走り始めた。

 しかし、真白が言った意味をこの後、嫌でも体で知る事になる。

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