第118話  魔素生成保存庫

 その日の夕方、調査を終えた真白は早速探索者協会へ向かい桐島に報告する。


「まさか…食材ダンジョンとは……これはまたとんでもない事になった」

「そうですね、なんせ今回ので食材ダンジョンは世界で6つになったんですから」


 今回発見された新しいダンジョン、それは多摩川ダンジョンと命名された。そして、その多摩川ダンジョンはダンジョンの中で最も珍しい食材ダンジョンなのだ。

 食材ダンジョンとは、モンスターのドロップ品はアイテムを製作する為の素材ではなく、食材ををドロップする。

 しかし、食材ダンジョンは真白が言ったように、今回の多摩川ダンジョンを含め、世界に6つしかなく、とても希少なダンジョンだ。

 しかもその食材は地上の物よりも上質で最高に美味しいのだ。

 しかし、モンスターが食材をドロップする確率が低く、ドロップしても極少量しか手に入らない為、地上では上層のモンスターでも高く取引される。


「しかし、食材ダンジョンがこんな近場に出来るとは。…確かダンジョンの食材は極上の美味しさだったな。……暇があれば潜ってみるか」

「会長さんもダンジョン食材に興味があるんですか」

「当たり前だ。極上の食材が近場でいつでも取れるのだ。最高であろう」

「ええ、分かります」


 やはり人間は美味し物に目がないのである。


「けど、また大変になるなぁ………」

「あー、確か食材ダンジョンの管理ってかなり面倒なんですよね」


 ただでさえ疲れてる桐島の目がさらに死んで行く。


「いや、管理自体はそこまで面倒ではない。面倒なのはドロップした食材の扱いだ」


 ダンジョン産の食材は普通の食材と違い、魔素の少ない地上だと1〜2日で傷んでしまう為、はダンジョン食材は食材ダンジョンがある国内のみで流通していた。


「ふぅ〜……とにかく、食材ダンジョンの件は政府と国際探索者協会に報告して、あとは規約通りにするしかないな」

「ダンジョン食材に規約があるんですか?」

「ああ、そうなんだ。恐らく今後重要になるから伝えておこう」


 ダンジョン食材には国際探索者協会が定めた規約がある。

 その規約とは————

 ①ダンジョン食材の売買は探索者協会が全て

  行い、クランや探索者個人での市場の売買

  を禁ずる。

 ②ダンジョン産の食材を店で提供する場合、

  協会から許可証を発行して貰う。尚、個人

  での食材収集での販売は禁ずる。

  ただし、収集した食材は個人で消費する分

  には制限はない。

 ③協会は最上層から中層までの食材を一定以

  上の量を海外に輸出すること。

  ただし、下層以降の食材はオークションに

  ての売買にすること。


 ————以上の三つだ。

 ①と②は主にただでさえ傷みやすい食材を探索者個人の杜撰な管理で傷んでしまった物を売買する事や需要を崩させない為である。

 ③はダンジョン産の食材を国で独占させない為である。

 実はこの③の規約、二年前にの登場により追記されたものである。


「これから日本はダンジョン食材での輸出の利益が大きくなるな。…誰かさんが作ったアイテムのおかげで」

「『魔素生成保存庫』ですね」

「ああ、アレは当時革命的だったな」

「いや〜、ダンジョン食材を食べてみたいって理由で造っただけなんですけどね」

「……私利私欲の為だけに造ったのか」


 『魔素生成保存庫』とは、真白が発明したアイテムの一つである。

 真白が言ったように、ただ真白がダンジョン食材を食べたいという個人的な願望によって造られたアイテムだ。このアイテムを使えば1〜2日しか保存できない食材を最低三ヶ月も保存可能となるのだ。

 当時、このアイテムの登場により、独占していた一部の国は不満がっていたが、輸出による利益が大きくなるとの話しになり、不満の声はあっという間に無くなり、むしろ今では積極的に輸出をしている。


「まぁ、まずは依頼を受けてくれた事に感謝する。報酬はいつも通り振り込んでおく」

「はい、ありがとうございます。会長さんも休んでくださいね」

「……また仕事が増えてまだまだ帰れそうにない。……ところで白岩さん…ドロップした食材はどうしたのかな?」

「……………………」


 桐島の質問に真白は目を晒す。


「…ハァー………今日中に誰にも見られないよう食べてくれ。正式に発表するまでは口外禁止で頼む」

「分かりました!」


 そうして真白は家に帰った。

 そして、工房で作業すると言って、ダンジョン食材を一人で味わった。

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