第113話  聖者の善魂

「まず、これを見てください」


 そう言って、真白は机にある物を置く。


「………【鑑定】」


 そして、それを龍也はスキルで鑑定する。


「……素材名も詳細の説明も出ないか……白ちゃん…これはまさか…アレと同じ…嫌、似た様な物かい?」

「はい。その素材名は『聖者の善魂』って言って、『亡者の邪魂』とは反対の性質を持つ物です」


 真白が龍也に見せた物、それは真白がクリスマスの日に徹夜で造った、白く輝く球だ。


「なるほど…しかし、あの真っ黒いやつが一体どうやったらこんな綺麗に輝く純白色になるんだい」

「それはですね————」


 真白は過去の『邪魂シリーズ』を造る仮定で直ぐに気づいた事は、『亡者の邪魂』はとにかく邪魂である限り造った体に定着すると襲いかかってくる事だ。

 その為、『亡者の邪魂』を邪魂でない物にすれば良いと考え、魔法で言うと、邪=闇属性と考えて、対となる光属性を邪魂に何らかの形で定着させれば良いと考えた。

 しかし、【付与】や【錬金術】の分解に分離を試しても上手くいかず、最後はただ砕け散るのみ。

 だが真白は、光属性がダメならと思いついたのが【聖魔法】だ。

 これはただ単純に、邪を祓うなら浄化しようと言う考えからの思いつきで、【聖魔法】を付与したアイテムで浄化を試みた。

 けれど、これも失敗する。しかも邪魂は砕け散るのではなく、ただ浄化されて消えるのだ。その後も色々と試しだが上手くいかず、お手上げ状態だった。


「————そこで発想を変えてみたんです。今までは直接素材やアイテムに魔力を使って付与などしていましたが、それを間接的にやってみようと」

「?? どういう事だい?」


 生産職はアイテムの製作仮定で、素材やアイテムに直接手に触れて魔力を流し付与などをする。それは【錬金術】や【刻印】のスキルも例外なく同じだ。


「直接的に自身の魔力を流して干渉するのではなく、別の素材やアイテムが素材に干渉して変化させればいいと思ったんです」

「………言いたいことはなんとなく分かったけど、そんな事可能なの?」

「はい。…例えば石井さん。ポーションは傷を直す為のアイテムですよね。でも、【光魔法】の『ヒール』も同じじゃないですか。…人が治すかアイテムがに治すかの違いで」

「………なるほどねー、言われてみたらそうだな。…当たり前のことだけど」

「はい。当たり前の事です。だから、【付与】スキルを直接素材に掛けるという当たり前の考えを無くして別のやり方でやってみたんです。…そこで、思いついたのが『魔力水』です!」


 『魔力水』とは、主にポーションに使う魔力のこもった水である。


「私はまず、『魔力水』に【神聖属性】の『浄化』を付与して『聖水』を作ってその中に『亡者の邪魂』を浸したんですよ。まあ例えて言うと、漬け込みタイプの液体サビ落としみたいな感じです」

「なるほど、分かりやすいな」


 真白は例えを交えて説明を続ける。


「はい。…ですけど、直接魔力を掛けた時よりはましだったんですけど、徐々に溶けたんですよ」

「え、どうしてだい?」

「えーー…ほら、例えば洗剤で汚れを落とす時って、薄めてやるのと原液でやるのとで違うじゃないですか。そして、原液でやった場合危険で注意しないといけないのがあるじゃないですか。多分『浄化』を付与した『聖水』は『亡者の邪魂』には強すぎたんだと思います。だから次は、【光魔法】の『クリーン』を付与した水に浸したんです」

「あー解った。…つまり、『浄化』を付与した『聖水』は原液洗剤で、『クリーン』を付与した水は薄めた洗剤ってことだな」


 真白の例えが良かったのか、龍也もしっかり理解できたみたいだ。


「それで結果はですね。分かっていると思いますが、『クリーン』の付与した水では成功しました」

「それで、出来たのがソレかい」

「いいえ、その時点では違う物が出来ました」

「??」


 どうやら真白の説明にはまだ続きがあるらしい。


「『クリーン』を付与した水で出来たのは『虚無の御霊』…詳細は、“何らかの魂の欠片で素材としては何も価値は無い”、らしいです」

「…………」


 龍也はどんな言葉で返せばいいのか分からなくて、黙ってしまった。

 そして、そのまま真白の説明は続く。


「そして今度は、浸す時間を長くしたり、また直接付与したりとしたんですけど、何も変わらずで色々と悩んだんですけど、今度は『聖水』に浸す事にしたんですよ。…そして出来たのがそれです!」


 そして、何故ここから真白は少し興奮しながら説明を続ける。


「どうやら、最後は『聖水』で聖心性……つまり! 魂を清らかにしないといけなかったんですよ! それで出来たのがこの『聖者の善魂』です!! 私の予想だと、コレは邪魂ではないので、体を与えても襲ってくる事は無いはずです! もしかしたら、意思を持ってくれるかもしれません! 現に、2ので」

「…………………………そうか。(え! あんなヤベーの中に意思を持つ奴がいるの! しかも2体!!)」


 龍也は『聖者の善魂』の話しよりも、最後の『邪魂シリーズ』に意思を持つ個体がいる事に一番驚いていた。

 そこから暫くは、真白のメイドの話し(一方的に)が続いた。

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