第110話 佳織の頼み
クラン『暁月の彗星』・訓練場
「ハッ!…『アースウォール』! 『エアブロウ』!」
訓練場に佳織の声が響き渡る。
現在、佳織は真白に頼んで模擬戦の相手をしてもらっている。なんでも、次の探索者昇級試験に挑むみたいだ。
探索者昇級試験とは、言葉からも分かるように探索者ランクの昇級試験のことだ。
この試験は1月、4月、7月、10月の年に四回行われる。
E〜Cランクは与えられたダンジョン依頼の課題を行なう。そしてBランクからは探索者どうしの模擬戦が含まれる。
因みにだが、Aランク以上は高ランクの探索者の推薦が必要だったり、世間の貢献度や特殊な条件などが必要である。真白がいい例だ。
「集中力が無くなってきてるよ。そのせいで発動速度も遅くなってるし、精神力や体力も無くなってきてるし、魔法も動きも単調になってきてる————」
「くっ! ……『ファイアボール』! …うわ!! …ぐぅっ!」
「————だから、こうやって接近されると何も出来なくなる……」
佳織が魔法を放つと同時に真白は距離を詰め襟を掴み背中から倒れるように投げる。
今日何度目か分からないくらい仰向けにされている佳織、身体は軽傷だが汚れがたくさんついている。
「取り敢えず、一旦休憩しよう」
「……………うん」
佳織と真白は近くのベンチに移動する。
「随分派手にやられてるわね、佳織」
「クラマス……やっぱり真白は化け物です」
「模擬戦頼んできておいて、その言い方はないでしょ」
この模擬戦は真白には当然だがかなりハンデをつけている。魔力を抑えるアイテムを20〜30個使って約1割に抑え、両手両足胴体に重りを付け、スキルは【身体強化】のみ、更に使っていい攻撃手段は利き腕じゃない左腕のみだ。
佳織の探索者ランクはBランクだ。決して低い訳ではない。むしろBランクの中では中の中くらいの実力だろう。
比較する相手が悪いだけだと思うが、真白が化け物みたいに強いのは事実である。
「ねぇ、佳織……幼馴染として贔屓目無しで言うけど…佳織にはまだ早いと思う。それに佳織がBランクになったのは今年の4月。本格的な戦闘の経験も足りてないし、それよりも、まだ一年もたってないのに、Aランク昇級は無理だと思う」
「……そうだけど……賢也さん私達と同じ年齢でAランクだったんでしょ……」
「いやいや、それはお兄ちゃんが才能あっただけだよ。普通は無理だから」
「「……………………………………………」」
真白は普通は無理と言うが、それ以上にあり得ないことをした真白にジト目する佳織と翠。
「それにね……佳織、あなた集団戦には強いけど、個人戦は弱いでしょ」
「っ!!!」
「…………」
佳織はどうやら自覚はあったらしく、図星をつかれて俯く。真白の隣では翠は何も言わずにただ立っている。
「……どうやら翠さんも分かってたみたいですね」
「…えぇ……佳織は確かに強いわ。しかもその若さでね。…けど、Aランク以上はただ強いだけではダメなのよ」
そう、BランクとAランクの壁は厚い。探索者がまず一番最初に伸び悩むところだ。でも、この壁を越えられずにいる探索者が殆どで、探索者界隈はBランクとCランクが最も多い。
「私も佳織が強いのは分かっているから選抜組のメンバーに入れてるけど、魔法アタッカーとしてだと難しいのよ。…その代わりサポート役としてはとても優秀よ」
翠にしてはオブラートに言ってるが、よわ、魔法アタッカーとしてだと、実力は少し物足りないってことだ。
「…確かに……アタシの魔法は、あまり火力がありませんから、クラマスの言う事は分かります………」
佳織の顔が更に俯き暗くなった。けど、真白は佳織が何かを焦ってるように見えた。
「佳織、こんなこと私に言われたくないと思うけど……何を焦ってるのかは分からないけど、急ぎ過ぎるのはあまり良くないよ。ゆっくりでいいから自分のペースで強くなればいい」
真白は佳織に諭すように言葉を続ける。
「最初から一人で戦う事しか出来なかった私と違って、佳織は今の自分に合った戦い方をすれば良い。火力不足はこれからの経験で得ていけばいいから」
「…………………………………」
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