第107話  動きだす強者達

〈オセアニア連邦探索者協会・ニュージーランド支部本部〉


 その高層ビルの中に併設されたバーの窓から、夜景を見る男女が二人居た。祖国の首都ウェリントンの街は建物の灯りとその光を反射する海が美しい。

 しかし、その内の一人はその景色を見ながら物思いに耽っていた。


「今回、あの少女にあんな事されて、私達の宣伝が霞んでしまったわ。貴方はどう思う? レオ君」


 女性がレオと言う男性に尋ねた。


「別に、何とも思ってないよ、ソフィー」


 そして男性のレオは、ソフィーと言う女性に言葉を返す。


「本当にー」

「本当だよ。それに、彼女はまだ高校生なんだろ。俺達からしたらまだ子供じゃないか」

「まぁ、そうよねー。…でも、総本部(オセアニア連邦探索者協会総本部)の一部のお偉いさん方はいい気がしないみたいなのよ」

「それって、その人達は少数派の頭の固い老害達だろ。…いい歳して今だに権力に縋るアホどもめ」


 レオが最後に毒を吐く。どうやらその少数派の者達が気に食わないらしい。


「けど、日本の協会から謝罪の連絡はきたらしいわ。どうやら彼女、ダンジョンに数日も潜りっぱなしで知らなかったみたいよ」

「ハハハァ! それじゃあ、『閃光』の爺さんみたいなもんじゃん! …なら尚更責める必要は無いだろう。…それに、彼女に何かすると返り討ちに遭うかもしれないからね。アメリカがいい例だ」

「確かにそうね」


 二人の男女は本音で話し合う。それほど気心の知れた仲だ。


「とにかく、私はこれ以上何かするつもりは無いわ。…まぁ、この国の協会の会長個人としては彼女の事は気になるけど」

「俺も彼女の事は気になるよ。同じSSSランクとしてね。イギリスの『絢爛の魔女』は速攻で接触したみたいだよ。どうやらかなり友好な関係みたいだよ。……俺も近いうち会ってみたいなあ……」


 この後、ニュージーランドの探索者協会の会長のソフィーとSSSランクのレオは朝まで飲むのだった。


————————


〈イギリス・ルーシー宅〉


「まったく…マシロには本当に驚かされてばっかね。この間だの『欠損部位再生ポーション』でもお騒ぎだったのに」


 イギリスのSSSランクのルーシーは、ニュースを見ながらボヤく。しかし、その顔は言葉とは裏腹に楽しそうに笑っている。


「今までS級ダンジョンの攻略すらされた事ないのに、それをソロで完全攻略って! 本当に面白い子ね」


 日本に居る友人の活躍に、ルーシーは驚いたものの、それよりも賞賛と嬉しさが勝った。


「これは、SSSランクの先輩として負けられないわね! ……久しぶりに私も未攻略のダンジョン攻略しちゃおうかしら!」


 ルーシーのこの時の気持ちは、探索者としての何かを刺激され、まるで獲物を狩る様な目をしていた。


————————


〈アルゼンチン・某ダンジョン近くのカフェ〉


「ほーう……ワシが五日もダンジョンに潜っている間に色々あったみたいだのーう……」


 その男はカフェで最近の出来事をネットニュースで確認していた。


「レオの奴が探索者を率いてSS級の深層レイドボスの討伐を宣言したのも驚きだが、……例の少女がのう……彼女は自重を知らんのか」


 男はネットニュースを見ながら苦笑いしていた。記事の内容は勿論、真白の完全攻略についてだ。

 しかし、その男も同じSSSランクとして、真白には興味がつきない。


「この嬢ちゃんが現れてから探索者界隈は変わったのう。……けど、殆ど良い方向に変わっておる。ここ数年マンネリ化してたからつまらんかったからのう」


 男はネットニュースの記事を見ながら楽しそうにしている。


「そういえば、ルーシーの嬢ちゃんが彼女と交流があったのう。……ワシも会ってみるのもいいかもしれんなぁ……」


 そして、男の目は年柄にもなく子供の様な目をしていた。


 ピピピィッ! ピピピィッ!


 そんな折、男の携帯に電話がきた。


「うむ、ワシだ」

『アッ! やっと繋がった! 貴方この数日何処にいたんですか!?』

「いつも通りダンジョンに潜ってたぞ」

『なら、連絡くらいしてくれと何度言ったら分かるんですか!』

「そうカッカッするな会長殿、ストレスが溜まるだけだぞ」

『誰のせいだと思ってるんですか!!』

「ホッホッホー、ワシじゃよ」

『分かってるならしっかりしてください!』


 のらりくらりと話す男と声を荒げる電話ごしの男の声。

 声を荒げているのはどうやらこの国の探索者協会の会長のようだ。声を聴くだけもかなり鬱憤が溜まってるようだ。


『たくぅ。……とにかく直接話しがしたいから協会本部に来てくれ。…てか、アンタ今どこにいる?』

「(ティエラ・デル・)フエゴ州じゃよ」

『国の最南端州じゃないか!!』

「安心しろ。ワシが本気を出せばブエノスアイレスまで3〜4時間程度で着く」

『……流石、相変わらず速いな』

「ホッホー。では切るぞ」


 そして、男はそのまま走り出す。

 しかも凄まじい速度だ。まだ本気で走ってはいないが、それでもスポーツカーの数倍速い。

 SSSランク最速の俊足は伊達ではない。





 こうして、それぞれの強者が真白を中心に動き出そうとしている。

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