第103話  嵐の前の地震

『—次のニュースは、遂にオセアニア連邦探索者協会が史上初のSS級ダンジョン深層レイドボスに———————』


 テスト明けの翌週の金曜日の放課後、真白はダンジョンに向かう事にした。


「お母さん、私ダンジョン行って来るね。それと、また泊まりで潜るから帰りは日曜の夕方頃になると思う」

「あら、泊まりでダンジョン行くのは久しぶりじゃない。また山梨の方に行くの?」

「いや、今回は違う所。偶には戦わないと体が鈍っちゃう」

「そう、……大丈夫だろうけど、幾らあなたが強くても、油断してはだめよ」

「うん。大丈夫、油断なんてしないし、危なそうだったらすぐ逃げるから」


 真白の母は夏のスタンピード事件で真白の強さを大体理解したつもりだ。けれど、過去に賢也を亡くした悲しみは当時程ではないが未だに引きずっている。だから真白が探索者を続ける事に心配せずにはいられないのだ。


「それじゃあ、行って来るねぇー」

「いってらっしゃ〜い」


 こうして、真白はダンジョンに向かい、母はそれを見送る。


『————まだ討伐メンバーは殆ど決まっておりませんが、…しかし、今回討伐メンバー達を率いるのはなんと! あの『魔剣王』です! ————』


 家を出てすぐニュースにながれた報道は大々的に報じられるのだが、そんな事を知らない真白である。


 ————————


 土曜日・午後1:00頃


 『暁月の彗星』・訓練場


「全体訓練はここまで! 後は各自で鍛練する様に! 解散!!」


 翠の声が訓練場に響き渡る。そして、クランメンバー達は各々に動く。


「さて、私は一旦シャワーでも浴びよ———」


 ゴト…ゴト…ゴトゴト……ゴト…————


「————……地震? ……小さい揺れだけど、長い揺れね……まあそんな時もあるか。それよりささっとシャワー浴びて事務作業して帰ろ」


 ————————


 土曜日・午後6:30頃


『生産組合』・執務室


「龍也ー…取り敢えずー、ある程度の数作ったよー」

「柊作か。どれぐらい出来た?」

「Eが3,678本でー、Dが3,416本でー、Cが1,907本でー、Bが461本でー、Aが21本だからー、合計9,483本だよー」

「初めてにしてはなかなかの量出来たな」

「いやー、でもねー、やっぱ殆どは失敗ばっかりだったよー。下っ端はDを作るのがやっとって感じー」

「それでも上出来だよ。…しかし、Aが21本かー……柊作、Sランクの製作はどうだ?」

「………正直言うとー、まだまだ無理ー。真白ちゃんの腕が良すぎるんだよー」


 龍也と柊作が欠損部位再生ポーションの製作状況について話していた。


「まあそうだけどよ。白ちゃんは今更だろ。むしろ調薬関連の技量はお前が上だと思うぜ。白ちゃんもそう言ってるし」

「そうかもだけどー…SやSSを作れる真白ちゃんの方がー、結果的に見ればすごいんだよー」

「お前は自分の腕前にもっと自信持て」


 コンコン


「入るわよ」

「おう、麗花か。どうした?」

「クラマス、今度のオークションについてだけど、————」


 ゴトゴト…ゴト、ゴト……ゴト…ゴト————


「おー、また地震だねー」

「昼頃にもあったよなあ」

「でも今のは少し強かったわね」


 その後、特に気にする事もなく、龍也達はそれぞれの内容の話しをした。


 ————————


 日曜日・午前11:00頃


 ゴトゴトゴト…ゴトゴト…ゴト…ゴト……ゴト……ゴト……————


 日本探索者協会・会長室


「……なんだか、昨日からやたらと地震が多いなあ。…これで7回目か……………」


 桐島は書類仕事をしている。ここの所忙しかったが、今はだいぶ落ち着いている。その理由は、真白問題児がここの所大人しくしていたからだ。

 そんな桐島だが、今一番気になっている事がある。


「とうとう動き出したか。…SS級ダンジョンの深層レイドボス討伐。成功すれば史上初、しかも率いるのは『魔剣王』とくるか……いい宣伝だろうなぁ」


 桐島は一人ぼやく。


「けど、ここの所白岩さんが目立ち過ぎたから、ちょうど良い。新たな話題になってくれるだろう。うちとしても助かるからなあ」


 プルルル! プルルル!


 だが、この電話で桐島の平穏は消えてなくなる。


「私だ。…どうした……ん? ……は?…はあーーー!!!??」


 桐島にまた新たな面倒事の知らせがやってきた。

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