第102話  冬休みに向けて

 12月中旬、文化祭が終わり、その後すぐテスト期間に入った。生徒達もお祭り気分から一気に勉強に集中する。進学校の為生徒達の気持ちの切り替えも早い。特に受験を控えている三年生は真剣だ。

 そして、二学期の期末試験も今日で終えた。


「ふぅー。…やっと終わったー」

「お疲れ佳織。手応えは?」

「微妙ー」

「まぁ文化祭もあったし今回は一年生の平均点数は多分下がると思うよ」

「真白は……うん…いつも通りだね」


 テストの手応えが微妙で疲れている佳織といつも通りの真白。この会話もいつも通りだ。


「早くダンジョン潜りたーい!」

「今日でテスト期間は終わりだから、帰ってすぐ行けるでしょ」

「今すぐにでも潜りたいの! どっかの誰かさんみたいにテスト期間中でもダンジョン潜っても問題ない成績じゃないの!」


 文化祭という学校行事を終えて直後のテスト期間、二、三年生は経験済みで殆どの生徒は完璧に切り替えができているだろうが、一年生は初めての為、分かっていてもまだ若干の気の緩みがあるのか、毎年二学期期末は平均点が減少傾向だ。

 それでも真白は、相変わらずダンジョンにほぼ毎日潜って活動していた。


「私も今回は少しだけど勉強したんだよ。でも、私はダンジョンに潜って生産活動が仕事の様なものだから。……しかも結構重要な」

「本当だよ!この間発表があった欠損部位再生ポーション! アレにはビックリだよ!」


 そう、ついこの間、真白が作った欠損部位再生ポーションなのだが、遂に人体試験の許可が下りた。

 普通なら最低半年くらい掛かるのだが、国際探索者協会はどうやら、部位欠損で引退をする探索者のことを結構問題視していたらしい。更に、探索者でなくとも、このポーションは今後の医療機関んでも役に立つ代物の為各国に発表し、早く生産量を増やしたいが為である。まあ真白の名声も少しある。

 しかし、こんなに早く許可が下りた一番の理由は『生産組合』の独占だろう。

 新薬のポーションなどは人体試験を無事にクリアして、問題がないと判断されて販売許可されたら、販売の特権は製作者又はその者が所属しているクランや協会に5年間の独占販売権が許される。

 つまり、その製作の方法を他の機関は知る事が出来ず、公開されるまで知ることが出来ないのだ。

 この決まりは過去に、新薬のポーションを同盟国の協会に製作過程を開示した国のだが、その同盟国側が製作過程のミスを国に擦りつけたのが原因だ。それ以降この法が決められた。

 もし、その期間に製作過程の情報の盗み又は漏洩した場合は厳罰が下る。


 そして、真白は新製品などの販売は全て『生産組合』を通している。つまり、販売権はほぼ『生産組合』にあるのだ。


「しかし、こんなに早く許可が下りて良かったよ」

「うちのクラマスも人体試験に協力するらしいもんね」

「協会や『光の癒し』以外にも一般の医療機関からも協力の声がきてるんだ。石井さんは5年以内に質の高いのを絶対量産化させる様にするって意気込んでる」

「あの人はお金儲けしたいだけでしょ」

「え? 生産職はそれが仕事だよ。それに私もできるだけ協力するし」

「………………………」


 流石龍也と思考が似た真白だ。生産意欲だけでなく金儲けも意識も強い。ただでさえ大量の資産を得ているのにこれ以上増やして、真白はいったいどうするのだろうか。


「でも、取り敢えず後は二学期の終業式を待つだけだよ。そして冬休みは探索者活動に集中できる」

「そうだね。アタシも今の内に準備しておかないと」

「佳織はまず宿題を終わらせるのをなんとかした方が良いよ」

「ウッ!……」


 それから真白は、冬休みの活動に向けて色々と予定をたてるのだった。

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