第98話  文化祭④

 文化祭二日目、今日を乗り越えればこの人混みから隠れなくてすむと思うと、気持ち的に楽になる真白。ラスト一時間は見て周るつもりだが、何かあったらボディーガードの佳織に期待するのであった。


「さぁて、今日も図書室に『失礼します。真白さんはいらっしゃいますか?』……チッ!」


 図書室に向かおうとしたら、真白のよく知る人物の声が聞こえた。真白は顔には出さなかったが、小さな音で舌打ちした。


「こんにちは、

「えぇ、こんにちは。…真白さん、わたくし達の仲じゃないですか。私の事は星歌と名前で呼んでください」

「(この猫被り変態女!)……いえ、学校では先輩ですので」


 真白の唯一苦手な人物、星歌が来たのだ。

 星歌の口調はプライベートでの、あのはっちゃけた様な変態口調ではなく、何処からどう見てもお嬢様の様な言葉と仕草だ。裏表のギャップが激しすぎる。


「あ! 二年生の天月先輩だ!」

「うゎ〜、『聖女』様だ〜」

「そういえば、白岩さんと知り合いだったけ」


 クラスメイトの女子達が星歌の登場に歓喜する。


「(騙されてる! この女は危険だよ! 猫被りで頭ん中はおっさんなド変態だよ!!)」


 真白はクラスメイトに心の声で訴える。しかし、星歌の登場に女子達は目を輝かせている。


「それで天月先輩。なんの御用でしょうか?」

「ふっふ。…実は私、今日は一日中空いているので、もしよければ、真白さんと一緒に文化祭の催しを見て周りたいと思って」

「先輩はクラスの屋台の手伝いがあるはずでは?」

「そちらは昨日一日中手伝っていましたので、クラスの方は大丈夫ですよ。ですけど、一人でいるのもどうかと思い、こうして真白さんを誘いにきたのです」

「(こいつ! 昨日はおとなしいと思ったら、この為に昨日丸一日クラスの手伝いをしてたのかー!!)」


 普通文化祭はクラスで活動するタイムスケジュールを決めて、午前と午後に別れる。

 しかし、星歌は一日目を全てクラスの出し物の活動をし、二日目を自由に周れる様にした。それは、真白を誘って文化祭を満喫する為に。


「(クッ! 学校だから素は出さないと思うけど、何されるかわかったもんじゃない!)」


 真白は自慢の思考速度でこの状況でどう断るかを考えた。星歌は一応先輩である。しかも知名度もそこそこ高く、人気もある。そんな星歌を理由もなく断るのは流石に真白でも分が悪すぎる。

 だから、ここは賭けに出ることにした。


「すいません。この後一緒に周る約束をしてる人が来るので、お断りさせていただきます」


「「「!!」」」


 真白の言葉に星歌と佳織だけでなく、クラスメイトまでもが驚いた。

 なんせ、人見知りで、あまり多くの人と関わろうとせず、孤高の雰囲気(クラスメイト視点)を出している真白が誰かと待ち合わせしているのだ。それは驚くだろう。


「真白…アタシそれ聞いてないよ!」

「驚きました。……まさか真白さんが誰かと一緒に行動するとは」

「はい。ですので、申し訳ありません」

「では! その方もご一緒にどうですか! その方が楽しいかもしれませんよ!!」

「(しつけぇーな!! コイツ!!)」


 真白は心の中で、さっさとどっか行ってくれっと思っている。だが、星歌もなかなか引かない。時間が長引けばどんどん真白が不利になっていく。

 どうしようかと悩んでいたその時————


 ピロリン♪


 ————携帯にメールが届いた着信音が響いた。それは、真白の携帯だ。


「すいません。メールがきたので確認します」

「えぇ、どうぞ」


 真白はメールを確認する。差出人を確認し、文面を読むと、————


「(ッシャァーーーーー!! ナイスタイミング!! 保険かけといて良かったーー!!)」


 ————どうやら真白が約束した相手からのメールのようだ。


「すいません。どうやら約束の相手が学校に着いたらしいので、自分はここで失礼します」

「………そう。…できれば一緒したかったんですけど、仕方がありませんね。そちらも楽しんでください」

「では、失礼します!」

「あっ! 真白ーまってよ〜〜〜!」


 真白は急いでその場を離れた。それを佳織が追いかける。こうして、真白はピンチを乗り越えた。

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