第90話 ジンクス
「それで、お願いとはなんだね? どうやら半月の間研究していたらしいが、それと関係があるのかい」
「はい!」
11月に入る手前、真白は探索者協会の桐島と会っていた。欠損部位再生ポーションの製作も最終段階に入った為どうしてもやらなければならない事がある。
「それと、その大量のレポートは何かな? なんだか凄く嫌な予感しかしないのだが」
「大丈夫ですよ会長さん。むしろこれは成功すれば探索者にとって、…いや、探索者じゃなくても大きなメリットがあるかもしれない物ですから」
「白岩さんの事だからそれは分かる。だが、その物自体がとんでもない代物なのだから怖いのだ!」
桐島もたった2、3ヶ月で真白の事が大体分かった。真白は一度暴走したり決めた事は法に触れない限り、どんな手段を使ってでもやる頭のイカれた性格なのだと。だから、黒に近いグレーゾーンの事も平気でやる子だ。そして賢くて、大金の個人資産を持っているから尚のこと質が悪い。
「……で、一体何をしてほしいのかね?」
「魔物実験をする許可をください」
「……………理由を訊いてもいいかね?」
魔物実験とは、医療で言う臨床試験の事だ。 ダンジョンのモンスターの中には、見た目は違うが、体の機能が人間と同じ様なモンスターが何体も居る。現代では、そのモンスターに試薬を試して安全性を確かめている。始めた当初は倫理的に問題視されていたが、今までの臨床試験より多くの結果を出して、様々な新薬を作り出し、治療が難しい病気も治す事ができる新薬がたくさん製作された。その為現在はそれなりに受け入れられている。
探索者では、生産職で『調薬師』のジョブの人がよく行う。
「以前、計画して断念したポーションが出来るかもしれないので、それを試してみたいんですよ」
「白岩さん、一体何を製作したのかね?」
「欠損部位再生ポーションです」
「…………??」
「欠損部位再生ポーションです」
「……?…… ( ° д °)!!」
桐島はいつぞやのアホ面をまたした。でも、それほどの衝撃的な内容だ。
「……はっ! え! ……け、欠損部位再生ポーション?!」
「はい」
「そ、それはそのままの通り、欠損した身体の部位が再生するポーションのことかな?」
「はい」
「……ハァ〜〜……」
桐島は頭を抱えてしまった。次から次へと面倒ごとを持ってくる真白に、もうどうしたらいいのか分からないと、それに軽く頭痛までし出した。
「……………白岩さん…君、探索者協会のジンクスを知ってるかい?」
「? いいえ」
「……ハァ〜。…覚悟はしていたが、まさかここまでとは……」
「あの〜、私何かやっちゃいました?」
「………実はだね、SSSランク探索者が居る国の探索者協会の上層部…と言うより会長は……凄い苦労するというジンクスがあるのだよ」
「え、何故ですか? あっ、もしかして、各国からの依頼をするかしないかの事ですか?」
「違う。………SSSランクは…決まって面倒ごとをおこすからだ!」
そう、SSSランクは決まって面倒ごとをおこすのだ。ある者は自慢の俊足で、各地のダンジョンを転々としていて、全く連絡が付かなかったり、ある者はスタンピードで溢れたモンスターを倒すが、加減を知らず一部の地区を半壊させたり、そしてある者は特大火力の魔法でダンジョンの地面や壁に大穴を開けて、崩壊させそうになったり、兎に角癖の強い者が多い。
この様に、SSSランクを抱えている国の探索者協会の会長は苦労している。
桐島は、真白は賢いし常識はあるだろうと思い淡い期待をしていたが、やっぱり真白も例外では無かった。むしろ一番癖が強く、短期間で次から次へと何かをやらかす。
「つまり、私はかなりの問題児て事ですか」
「当たり前だ。…他の三人も年に4,5回くらいしか……いや、4,5回も? ……兎に角それくらいのに、白岩さん……君はどうだ! 君が世間に出てからいくつ面倒ごとをおこしてる。たった数ヶ月でこんなに面倒ごとをおこすのは君しかおらんよ! もっと自重してくれ! 君の様な高ランク探索者は細かく報告書や始末書を書いて国際探索者協会に提出しなければいけないのだから!!」
「……協会の仕事も面倒なんですね」
「誰のせいだと思っておる。………ハァー…」
「え〜と、すいません。これからはなるべく自重するようにします」
「……いや、こちらこそすまない。私も会長に就任したばかりで、ちょっと精神的に追い詰められて八つ当たり気味になってしまった。本当申し訳ない」
真白も自分が暴走気味だったのを自覚しているからか、今後はなるべく自重する様にしようと思った。
「それで、本題の魔物実験だったか。むしろ是非やってほしい。その様なポーションができれば不慮の事故で引退する探索者も減るだろからな」
「ありがとうございます」
「ただし、流石にSSSランクとはいえ、まだ高校生の白岩さんに全て一人でやらせる訳にはいかない。だから信頼できる者に同行してもらう」
「あ、だったら『生産組合』の幹部に調薬師の人がいるのでその人に同行してもらってもいいですか? 実は今までも私の作ったポーション類などは、石井さんを通してその人にお願いしてましたから」
「なら大丈夫だろう。だが、分かってると思うが、魔物実験をする場合は、失敗成功関係なく報告書を細かく書いてくれ。これも決まりだからな」
「はい。分かりました」
「では、許可証を出すから暫く待っていてくれ」
「あっ、それと私が持ってきたレポートですけど、制作の過程や考察などを纏めた資料です。一応目を通していただけますか」
「分かった。…白岩さん、これはコピーとかはしても……」
「すいません。できればここで読んで頂けると助かります。流石に渡すことはできません。ただ私は、しっかり協会に報告してますという形をとっているだけですから」
「……分かった」
こうして、真白の欠損部位再生ポーション製作計画は次の段階へと移る。
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