第89話 全力製作!
探索者業を引退する理由の中で、一番多いのは歳をとった者だ。そして次点で多いのは、身体の欠損で戦え無くなった者だ。
自分の力を過信して無理して深い階層に潜ったり、イレギュラーな事故にあったりなどで身体の一部が無くなった者達がどうしても年に十数人は出てしまう。日本は少ない方だが、海外だとかなり多いらしい。
そういった者達は、各国によって異なるが、日本では協会が色々とダンジョン探索意外の仕事を斡旋したりしている。まぁ、殆どが探索者協会の各支部での仕事になる。だが、中には浅い階層で戦闘してる探索者もいる。
けれど協会としてはあまりその様な理由で引退する探索者を増やしたくないのだが、どうしようもないのが現状である。
だが、真白は以前から考えていた。欠損部位を治せるポーションなどがあれば良いと。
しかし、現実的にそれは不可能だ。火傷や凍傷の様なのと違い、欠損部位は無から有を造る様な物。
錬金術は掛け算の様なものだ。1に10や100を掛ければ10や100になる。しかし、0に何を掛けても0だ。いくら真白とて、その
その為以前真白は一時断念した。けれど、最近、まだ仮説ではあるが、問題解決に目処がだった。
「いや〜アンデットのドロップ品も使い方次第なんだね。価値が無いて言う偏見で見落としてたのかな。遊び半分で研究してみたけど大収穫だったね!」
真白は世間からハズレダンジョンと言われているアンデット系ダンジョンのドロップ品に本当に価値が無いのかを、いつもみたいにちょっとした興味で色々と遊んでみた。そしたら一つのドロップ品にある可能性を感じた。
「この『屍食鬼の血肉』にあんな効果があるとはね」
そう、そのドロップ品とは、グールの血肉、つまりグールの死体だ。グールは倒すと魔石と体の一部(主に腕か足)がドロップする。
グールとは、遠目だと、見た目は普通の人間に近いが、近くで見ると目が黒く瞳孔が赤色で、何より身体から黒い血管が浮かんでいる。
そんなモンスターだが、動きは噛みつくてくるだけで、ゾンビよりただ素早くて力が強いだけである。しかし、最も厄介なのが再生力だ。例えば、ゾンビだと腕を斬り落としても、腕はそのままでゾンビは腕が無い状態で襲ってくる。しかし、グールは腕を斬り落としても、切り傷から腕が生えてくる様に再生する。だから、頭を攻撃するか魔法で一撃で仕留めるのが攻略方だ。
そして、真白はそんなグールの再生力に目をつけた。この再生力、このドロップ品で再現出来ないかなと。
そして真白の研究が始まった。『屍食鬼の血肉』をモンスターに食わせてみたり、切り刻んでポーションをかけてみたり、別の素材と合成してみたりと思いついた事をひたすら試していった。
そして、見つけた効果が、血肉の血の方である。【錬金術】で血と肉を分離して、色々やっていたら、なんとグールの血は他の生物の血を混ぜると、混ぜた生物と全く同じになる事がわかった。
分かりやすく言うと、人間の血液型では、A型の人にはB型とAB型の血液を輸血すると異常反応をおこす。だからA型の人には、A型かO型の血液を輸血する事になる。
だが、グールの血はどの血液にも異常反応しなかった。真白はA型で自身の血を混ぜてそれを知り、他の知り合い達からも血をわけてもらった。実は真白がポーション類を作る時はほぼ毎回やる事なので、今では皆んなかなり協力してくれる。そして、実験の結果から、全ての血液が一つも例外なく異常反応しなかった。ついでにモンスターの血液で試してみても、殆ど大丈夫だった。ただ、階層ボスやレイドボスクラスのモンスターの血は例外だった。
この発見に真白は歓喜した。もしかしたら、断念していた欠損部位再生ポーションを作れるかもしれないと。
その為真白はテスト期間中にも素材を集め、龍也から頼まれた【瘴気耐性】のアイテムの納品も急いで終わらせて、暫く研究に時間を費す旨を伝えた。しかも今回は、母と父に紗奈にも学校以外はアトリエに籠ると言って、食事は自分でなんとかすると言った。その時の真白はやや暴走していたので、皆んな受け入れた。しかし、佳織には血をわける代わりに勉強を教える羽目になった。真白は研究の為に仕方なく一日だけ了承した。
因みに、テスト勉強は真白のアトリエの休憩室でやったのだが、佳織はアトリエ内にある真白の研究レポートや素材や試験管にビーカーなどの実験器具の量、更に真白は佳織に教えなかったが、所々グールの血で染まったテーブルなどを見て驚いていた。
そして、テスト期間が終わった今日。真白の生産意力のストッパーが外れる。
「さあ! 全力でやるぞ! そして完成させてみせる!!」
頭のイかれた錬金術師の少女が暴走しだした。
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