第78話  決戦前

青木ヶ原ダンジョン60階層  13:50


「少し早く来すぎたかな。まだ10分ある……」


 地上で準備を終えた真白は、60階層のレイドボスエリアの大扉の前まで来ていた。

 レイドボス戦は14:00から生配信する為そこそこ時間がある。


「取り敢えず連絡だけしよう。…周りにモンスターは……居ないね」


 周囲を警戒しつつ、真白はビデオ通話で電話をかける。


『もしもし真白、もう着いたの』

『お、白ちゃん。もう着いたのかい』

『ましろちゃん、疲れてない? 戦闘前に少し休みなさい』

『天月さんの言う通り、今は少し体を休めてくれ』


 思いのほか、4人共すぐに繋がった。


「はい。もう大扉の前まで来ています。準備も整っているので、大丈夫だと思います」

『今回は全く情報の無い未知のモンスターだから、気は抜かない様にね』

『エリアに入ったら即戦闘て事もあるから、注意してね。ましろちゃん』

『まあ、白ちゃんだし、そこら辺は多分大丈夫でしょ』


 翠、相良、龍也の3人は、真白に改めて注意をする様にと言葉をかける。


『白岩さん、告知はこちらの方でやったのだが……とんでもない事になっておる』

「え? 早速アンチですか」

『いや、今のところアンチは無い。むしろ好評なコメントが多い。…しかし、国内にしか告知してないのに、待機してる同接数が尋常じゃない………』

『いや〜〜〜、800万越えっておかしいだろ。せいぜい50万くらいだと思ったぞ。……これ、絶対海外勢いるよな。いくらなんでも情報の拡散が早すぎるだろ』


 なんと真白のチャンネルには、既に約800万近くの視聴者が待機しているみたいだ。現在もまだまだ伸び続けている。

 龍也の言う通り、この人数は海外勢は確実にいる。しかし、いくらネット社会とはいえ、昨夜告知した筈なのに多すぎる。

 配信時間が近いからか、同接数の増える数が加速した。もうそろそろ1,000万を超えそうだ。


「龍也さん、収益化したら信頼できる税理士を紹介してください」

『オッケー! 任せな!』

『……しかし、もう1,000万いくわよ。暇人多すぎじゃない』

『SSSランクの……しかも、今最も時の人で、生産職の中では不遇の錬金術師。この2、3ヶ月で幾つもの大偉業を成している少女の戦闘の生配信よ。…ましろちゃん、すごいわね』


 翠と同じく、真白も暇人多いいなとは思ったが、相良の言う通り、世間では真白は、今を行く時の人だ。話題性は抜群だろう。

 しかし、それにしては多すぎる。そして、一つだけ心当たりが真白にはあった。


「会長さん、一つ訊きたいのですが」

『なんだね?』

「ルーシーさんて、まだ日本に居ますよね」『『『『あ』』』』


 そう、昨夜の国内だけの告知で1,000万越えなど普通はありえない。例え誰かがネットで呟いたとしても多すぎる。だが、今日本にはもう一人のSSSランク、イギリスのルーシー・モリスが居る。探索者界隈で影響力のある彼女がネットで呟いたら広まるのは当然早い。


『確かに、それなら納得できてしまう』

『まぁ、悪い事してないから大丈夫じゃない』

『むしろ、収益化が思ったよりも早く通るかもな。白ちゃん、税理士は急いで探すぜ! 収益化が通ったら………よろしくね』

「えぇ、こちらこそ。……色々とお願いしますね。どんどん還元しますとも」

『ましろちゃん、石井君……その話はよそでしなさい』


 相良が2人(金好き)の話をぶった切る。色々と力がある分、時代劇の悪代官が可愛く見えるくらいタチが悪い2人である。


『そろそろ時間だ。……白岩さん、配信を始めておくれ。動画越しだが、応援している』

『真白、しっかりやりなさい』

『無理はしないでね』

『また世界中を驚かしてやれ、白ちゃん!』


 4人共それぞれ、真白にエールを送る。


「はい! ってきます!」

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