第63話  一騒動

 甲府駅から徒歩で約3分。真白は探索者協会山梨支部に着いた。

 今の真白の服装は、無地の白いVネックの半袖でに丈が膝上までのデニムパンツ、膝下までのロングブーツと黒のキャスケットにサングラスをかけている。

 最近何かと目立つ真白は、外出する時、帽子とサングラスが必需品になってしまった。

 真白はそのまま受付まで足を運ぶ。


「すいません。少しよろしいですか」

「はい。えっと、ご用件は何でしょうか?」


 若い受付嬢さんが対応してくれた。話し方を聞く感じ、まだ新人みたいだ。


「協会と提携しているホテルがあると聞いたので、紹介してほしいのですが」

「? え〜と、…すみませんが、まだお若いですよね。そのサービスはSランク以上の探索者しかご利用できません」

「はい。分かってます。……あ、これ、私の登録カードです」

「……拝見します」


 真白が受付嬢に登録カードを見せる。すると、受付嬢の顔が驚き顔になり、真白とカードを交互に見る。やがて、震えながら、———


「た、たた、…大変申し訳ございません! 只今上の者をお呼びしますので、暫くお待ちください!!」


 ———大声を出して、後ろの事務室のような部屋へと駆けていった。

 他の受付の人や、周りの探索者もいきなりの事で訳が分からず真白のことを見ている。

 暫くして、さっきの受付嬢ともう一人の女性が来た。桐島より少し若い感じの人だ。


「大変お待たせしました。私、探索者協会山梨支部の支部長を務めている相沢です。…初めまして、白岩真白様」


 どうやらここのトップの人らしい。

 しかし、支部長が出て来て少し騒めいたが、真白の名前を出した途端、周りの全員が驚きだした。


「う、嘘……本物…」

「な、何でここにいるんだ?」

「彼女が噂の錬金術師……」


 周りの探索者や職員までが手を止めて真白を見ていた。


「すいません。一旦奥の応接室までご案内します。貴方、白岩様の案内を」

「は、はい!……し、白岩様! 応接室までご案内します!」


 先程の新人さんに言われ、真白は後ろを着いていく。

 何故か結構広い応接室に通された。


「し、支部長が来るまで、お、お掛けにな、なってお待ちください!」

「…はい。……ありがとうございます」

「し、失礼しました!!」


 新人の受付嬢さんは扉を閉めて行ってしまった。真白は、目の前のソファーに腰を掛けて待つ。4、5分後、支部長の相沢さんが応接室に来た。真白は一旦席を立つが、———


「そのまま座っていて構いません。只今お茶を用意します」

「私はまだ高校生なので、どうぞお気遣いなく」


 ———どうやら、気を遣われてるみたいだ。


「そうはいきません、白岩様の立場からすると、私は下になります」

「なぜですか?」

「白岩様、…大変失礼な事を言いますが、貴方はSSSランクなのです。現役探索者の中で最も発言力があるのですよ。場合によっては、会長よりも発言力があります。心に留めておいてください」

「……分かりました。…しかし、この場では普通に話してくれて構いません。そちらの方が話しやすいので」

「恐縮です」


 そして、お互いがソファーに向かい合うように座り挨拶する。


「改めまして、私は探索者協会山梨支部の支部長を務めている相沢あいざわ時子ときこと申します」

「先日、SSSランクに認定されました。白岩真白です」


 挨拶を終えたと同時に扉がノックされる。


「入りなさい」

「失礼します。…お茶をお持ちしました」


 入って来たのはさっきの新人とは違う受付嬢さんだ。

 入室後、真白と相沢にお茶出してそのまま退室した。


「失礼しました」


 扉が閉まり、相沢が口を開く。


「さて、先程は受付の者が大変な失礼をしました。申し訳ありません」

「先程の事はどうか、お気になさらないでください。私に被害はありませんので」

「そう言っていただけると助かります。あの子は今年入った新人ですので、……あの子には白岩様の相手は、荷が重っかたかもしれませね」

「どうか責めないであげてください」


 真白は申し訳ないと思い受付嬢を庇う。


「安心してください。突然の事でしたので、責める気は無いです」

「なら良かったです。…ですけど、私は偶にですが、こちらに結構な頻度で来る事になるかもしれませんよ?」

「……その時は、しっかり対応します」


 お互い少し長話をしたが、真白は時間が惜しいので、本題の話をした。


「———…なるほど、提携ホテルだと、この協会前のホテルのスイートルームになると思います」

「普通の部屋でいいですよ?」

「先程申し上げましたが、白岩様はSSSランクなので、…こちらもその様に対応しないといけないのです」

「……分かりました」


 真白は自分の待遇について考えるのを諦め、素直に受けることにした。


「そして、依頼の事なのですが、自立魔導カメラを購入したいとの事でしたね。でしたら、この近くに電化製品を扱う大きな店があるので、そこがオススメです。あちらのオーナーに紹介状を書きますのでお待ちください」

「ありがとうございます。…本当は自分で造ろうかと思ったんですが、時間が惜しいので今回は購入します」

「そうですか。そのようにした方が……ん? あの、今自分で造ると仰られましたか?」

「? はい」

「え、…自立魔導カメラは『生産組合』が製造販売して各店舗に販売している商品ですよ?」

「……あ、そうか、知らないですよね。実は、自立魔導カメラなんですが、発明したのは私です」

「……え?」

「最初は数台を委託販売していただけなんですけど、石井さんが、需要がありすぎて間に合わないと言ったので、製造方法を他に出さない条件で売ったんです。…て、どうしました?」


 真白は何でも無いように話したが、相沢にとっては違う。


「じ、自立魔導カメラは白岩様が発明されたのですか?」

「? はい。…ていうより、『生産組合』が製造販売している魔石を使った自立式の稼働具約八割は私が発明した物ですよ」

「………………えぇぇぇぇ!!」


 相沢は何故か驚いた声を出した。『生産組合』が製造販売している自動魔石稼働具は真白が発明して『生産組合』が販売しているのはそこそこ知られている。けど、相沢はどうやら知らなかったらしい。

 その後は、紹介状を貰いカメラを買う為、その場を後にし、真白は家電量販店へ行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る