第59話 強さの源
「……で、いつまで日本に居るんですか?」
「『いや〜、日本観光が楽しくて! あ、これお土産、今朝京都から帰って来たの。この後は横浜観光よ!』」
放課後、学校でのストレス発散の為、横浜ダンジョンへ潜るつもりだったが、連絡先を交換したルーシーから、お誘いの連絡が来た。場所がちょうど横浜だったので、真白はついでに会うことにした。
「シャーロットさんに怒られないんですか?」
「『シャーロットも楽しんでるわよ。今頃ラーメン博物館て所に行ってるわ。あの子、見かけによらず健啖家なのよ』」
「…それは意外ですね」
「『私は因みに、この後はランドマークとイセザキ・モールに行くつもりよ!』」
「エンジョイしてますね……」
あの会見以降、ルーシーはイギリスに帰国せず、日本観光をすると言い、色んな所に行ってるみたいだ。博多、大阪、奈良、京都とあちこちと行っている。
「『まぁ、後一週間ぐらい居るつもりよ』」
「イギリス探索者協会は何も言わないんですか?」
「『SSSランクにする依頼なんて殆ど無いから暇なのよ。だから私達は偶にダンジョンに潜ったり、下位探索者の育成をしてるわ』」
「そうなんですね」
「『むしろマシロの様に、生産して商品販売してる方がいいと思うわ。…マシロは自分の店を持たないの?』」
「いいえ、これからも『生産組合』に委託販売するつもりです。その方がダンジョンにも潜れたり、知らない素材が手に入ったりと、私にとってはいい環境です。…まぁ、石井さんを信頼してるのが一番の理由ですね」
「『確かに彼程の生産職はそうそう居ないわよね。豪商の言葉がよく似合う人ね。そういえばマシロは、彼と色々と儲け話しをしてる見たいね』」
「私が思った事を言って、石井さんが細かい所を考えて形にしてくれてるだけです」
そして、真白とルーシーは雑談を数分していると、———
「『マシロ……こっからは少し、重要な話しましょう』」
———ルーシーが真面目な顔になる。
「…何ですか?」
ルーシーに倣って、真白も真剣な顔になる。
「『………マシロ…あなたは、SSSランクの強さの源て、……何だと思う?』」
「…‥…………………………………」
唐突な質問だった。
「『周りの人達は、才能や努力、天才、などと抽象的で表面上の事しか言わないわよね』」
「………………」
「『でも、…この領域に来ると嫌でも知ってしまうのよ。これがどれだけ危険な事なのかを……』」
ルーシーの言葉に込める感情が、真白も同じ領域の人間だからこそ、嫌でも理解できる。
その感情は、———
「孤独と恐怖、肉体と精神に苦痛を負いながらも、死の淵の戦いを一人で、何百も何千も繰り返し続けても屈しない心の力……ですよね」
———『心痛』だった。
「『……今まで、強さを求めてそういう事をしていた探索者が沢山いる。けど、そのほどんとの探索者に待っているのは、………『死』、だけなのよ』」
「……………………………………」
探索者、主に戦闘職は、ダンジョンに潜って戦って強くなる。しかし、Bランクぐらいまでは、努力次第ではいけなくはない。
しかし、そこから先は茨の道だ。A〜SSランクは、努力だけでなく、実力と実績が必要になってくる。けど、それはパーティーやクランのメンバーと協力するのが当たり前だ。一人でなんて殆ど居ないだろう。
「……私はずっと一人でしか戦って来ませんでしたから、死ぬ寸前の戦いは、去年までは当たり前な事でしたね」
「『…私も、最初は臨時パーティーで潜ってたけど、……当時の私は人一倍ダンジョンに潜ってたから、周りが追いついて来なくて、Aランクあたりからは一人だったわ。……それからは何百回も死にかけたわ』」
ルーシーも真白の様に死の淵の戦いを知っている。
「これは、かなり辛い道ですからね」
「『そうよ。……あ、これはSSSランク同士内での秘密よ。知られたら死人が沢山出るわ』」
「はい」
一人で戦うことは結構しんどい。真白はよく知っている。なんせ団体行動が苦手で、誰とも一緒に戦った事が無いからだ。
「でも、……こう言うのは悪いことだと思いますけど、……本当に圧倒的な強さを追い求めるなら、仲間達と助け合う事や、中途半端な仲良しこよしで戦う探索者は、甘い考えだなと私は思います」
「『……………………』」
おそらく、SSランクとSSSランクの壁はそこなのだろう。
たった一人で、死の淵の戦いを『する』か『しない』かだ。そして、その苦難に負けない精神的な強さだ。
「『マシロ、あなたはこれからも一人で戦い続けるの?』」
「はい。…まず、私の戦法だと、周りを巻き込む前提なので、それしかできません」
「『……そう。……けど、本当に困ったら周りを頼りなさい。きっと助けてくれる人はいるから』」
「わかりました」
この後、真白とルーシーは暫く話しをして店を出た。
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