第58話  日常の変化

 8月下旬、今日から学校は二学期の始まりだ。

 あの記者会見後、真白の日常は大きく変わった。

 真白の近所の住人や、よく行くコンビニの顔見知りの店員の人達が、真白をが見る目が『羨望』と『称賛』に変わった。まぁ、近所に真白のような有名人が居たら誰でもそうなる。

 真白の父と母も仕事場で、真白の事を知っている人達から色々言われたみたいだ。父は調子に乗って真白の自慢話を長時間話して上司に注意されたらしい。

 けど、それ以上に真白の自慢話をしているのが紗奈だ。近所のお友達に何やらプライベートの事まで話してるらしい。けれど、紗奈もそれなりに賢いので、言って良い事と悪い事の境界線は分かってる。

 けれど、真白はこういう時、マスコミが家まで来て取材しに来ると思って覚悟していたのだが、どうやら桐島と龍也(主に龍也)が手を回したらしい。真白としては助かったので感謝している。

 しかし、一番の不安は、今日から始まる学校である。


「佳織…私のボディガードとして、死ぬ気で働いてね」

「真白…人を物で釣っといて、その言い方はないでしょ。…釣られたアタシも悪いけど」


 真白の学校は私立の進学校ながら、探索者にも理解ある学校だ。しかも、選択科目ではあるがダンジョン学がある為探索者登録をしてる生徒も多い。だからSSSランクの探索者になった真白に興味が出ないはずがない。人見知りを拗らせ、自分の席で寡黙に本(ラノベ)を読んでいた真白にとっては最難関事項である。

 だから真白は、佳織に以前手に入れて真白の時空間バックの中に埋もれてた獅子王のユニーク装備を使って、佳織専用装備を造ると約束もとい買収してボディガードになってもらった。


「クラマスや石井さんとかとはすぐに打ち解けたのに、何でクラスメイトは無理なの」

「……………………」

「………真白、これからは人見知りを克服していこうか。まずは他人と目を合わせて話せるようになろう」

「………………………………………ウン」


 真白は頷くが、かなり弱々しい。克服するのは、まだまだ先のようだ。

 暫く歩くと、学校が近づいてくる。そして、同じ学校の制服を着た学生がどんどん増えていくと———


「おい、あの子…」

「あの子よね。錬金術師の……」

「4人目のSSSランクの子だ」

「同世代なのに凄えよな……」

「しかも超美少女だぜ! どうかお近づきになれねぇかな?」

「お前じゃ無理だ。住む世界が違う」


 ———周りの学生からの視線も声も増えてきた。


「うぅぅぅ〜〜〜………」


 真白は記者会見とは、違う種類の視線に当てられ萎縮する。

 何度か声をかけられた(殆ど男子)が、佳織が躱している。

 学校に着くまで、ずっと佳織に引っ付いて歩いた真白だが、校内ではしっかり歩く。けど、佳織との距離は近い。

 やがて、教室の前に着き、扉を開ける。


「おはよう。久しぶり、皆んな!」

「あ! おはよう、佳お…り……———」

「「「「「「「…………………」」」」」」」


 クラス全員の視線が真白に集中する。当然のことである。真白が世間に公表された時、もっとも驚いたのは、学校の中ではクラスメイトだろう。まさか夏休み中に自分のクラスメイトがSSSランクに認定され、しかも生産職でありながら戦闘も行い、大偉業な事をやっていたのだ。驚かないはずがない。むしろ現実なのか疑ってしまう。

 真白は周りの視線を気にせず自分の席へ向かう。佳織も席が隣りなので一緒に着いて来た。真白は席に着くなり、ブックカバーを掛けた本(ラノベ)を読む。しかし、周りの視線はずっと真白に向いている。


「……ね、ねぇ佳織………」

「ん、どうしたの?」


 クラスの一人の女子が声をかけて来た。しかし、真白に話しかけづらくて、真白と仲の良い佳織に声をかけた。


「……その…白岩さんは、…テレビやネットで話題になってる……錬金術師よね?」

「「「「「「「「……………」」」」」」」」


 彼女の質問に、全員が耳を傾ける。クラス皆んな、興味深々なのだ。


「えぇ、そうよ」

「「「「「——————………!!」」」」」


 佳織の肯定の言葉にクラス全員がやっと現実だと理解した。

 そして、あっという間に真白の周りには人集りができた。それに、廊下には他のクラスの生徒も覗いている。探索者に興味がある生徒が多い学校で、目の前にSSSランクの探索者いれば、色々訊きたいこともあるだろう。

 真白は周りの生徒から色々質問を矢継ぎ早に訊かれるが、————


「すいません。静かにして下さい」


 ————緊張のあまり振り切った。


「ごめん皆んな、実は真白って、こう見えて人見知りなの。だからあまり寄ってたかって訊かれると緊張しちゃってこうなるの。だから代わりにアタシが応えられるのだけ応えるよ」


 佳織が真白のフォローをした。真白と佳織が幼馴染なのは知られているので、皆んな納得してくれた。

 佳織は、応えられることは応えるが、わからない事や話せない事は話さなかった。

 やがて、先生が教室に来て朝礼が始まり、今日は始業式だけなので、軽く話して重要事項は終礼前に話すらしい。けど、話してる間にチラチラと真白のことを見ていた。やっぱり真白のことが気になるみたいだ。


「………………ハァ〜」


 真白は誰にも聞こえないぐらい小さな溜め息を吐き、物思いにふける。

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