第57話  記者会見

「………………………………………」


 場所は日本探索者協会の大講堂の舞台裏。真白がもの凄く不機嫌な顔をしていた。

 先程別室で認定式を行い、その時は探索者協会の桐島に幹部の者と龍也、翠、相良のいつもの3人、そしてルーシーの少数で行った。だが、問題はその後だった。

 一昨日、会見に必ず出てほしいと桐島に言われ、真白は断りたかったが、残念ながら無理だった。何故なら真白がこれまで行なってきた事は全てが大偉業だらけだからだ。


⚫︎『S級ダンジョンレイドボス単独討伐』

⚫︎『SS級ダンジョンスタンピード終息』

⚫︎『フェアバンクスダンジョン災害地区解放』


 一つだけでも大偉業と言える事を僅か約2ヶ月程で三つもやり遂げたのだ。

 そして更には、生産職としては『スキルオーブ』や『自動魔石稼働具』などのアイテムの発明をしてきた。

 これだけの事を一人の少女、ましてや生産職の中でも不遇と言われてる『錬金術師』が成し遂げたのだ。注目されて当然で、世間に姿を現さないなど反感を買う。


「……体調悪くなってきました。……帰っていいですか?」

「いい加減にしなさい真白。ここまで来たんだから覚悟決めなさい」

「ましろちゃん、公表すると言ったんだから今更逃げられないわよ」

「俺らも一緒に出るから、何かあったらフォローするぜ」


 真白が仮病を使おうとしたので、3人が止める。

 けど、真白も内心解ってはいる。こうなる事も認めたく無かったが予想はしてた。だから覚悟はしているつもりなのだが、それでも真白が不機嫌な理由は———


「…………せめて仮面を付けさせ下さいよ。なんで素顔じゃないとダメなんですか!?」

「……白岩さん…申し訳ないが、我慢していただきたい」


 ———素顔を世間に晒すからだ。

 真白は今まで表舞台に出ていた時は仮面を付けていた。忘れられてると思うが、真白は人見知りだ。けど、きっかけさえあればすぐに打ち解けられる。それでも治らない理由は、人と目を合わせる事がとても苦手だからだ。今までは仮面のおかげで多少の緊張は和らいだが、今回はそうは言ってられない。


「そろそろ出ないと不味い。白岩さん、覚悟を決めてください」

「『マシロ、私も居るから大丈夫よ』」

「うぅ…………はぁ〜………ヨーシ」


 覚悟を決めたのか、真白は弱々しい気合い入れた。しかし、目は死んだままだ。

 そして、会見の席へと向かう。席順は正面から見て左から順に相良、龍也、桐島、真白、ルーシー、翠の六人で座る。

 配信カメラにテレビ局、鳴り響くシャッター音とカメラの光、真白はすぐにでも逃げ出したい。平静を装って居るが、真白の顔はよく見ると真顔であり、心拍数はどんどん跳ね上がっている。


「これより、会見を始めさせていただきます」


 桐島の掛け声と共に会見が始まった。

 まずは自己紹介からで、桐島から順に始まり相良、翠、龍也、ルーシーと自己紹介を終え、とうとう真白の番である。真白は席を立ち上がり挨拶をする。


「初めまして。この度、SSSランクに認定されました、白岩真白と申します。ご存知の通り、私のジョブは『錬金術師』です。まだ16歳の高校生の為、至らぬ点が多々あると思いますが、ご了承いただけると幸いです」(棒読み)


 真白は綺麗なお辞儀をして席に座る。


「「「「「「………………………」」」」」」


 誰もが思っただろう。『え、この子本当に高校生? 凄い礼儀正しい』と。まぁ当然の反応だ、けれどいつもの事である。しかし、今回は仮面が外し素顔が完全に顕になっている。はっきり言って、真白は十中八九誰もが認める美少女だ。輝くような白い肌に綺麗な顔立ちと整った体、そして物静かな雰囲気が神秘的に見えるだろう。しかし、本人はそれをあまり自覚してない。


「…え〜、続いては———」


 その後、桐島は今回真白がSSSランクになった経緯を要約して話した。大体は動画やネットの憶測通りであった為すぐに終わった。


「では、質疑応答に入らせていただきます。…すいませんが、挙手制にしていただきます。そして、質問は一回につき一つとさせていただきます」


 桐島の発言が終わると同時に、記者達が一斉に手を上げた。そして、桐島が相手を選び指名し、記者が質問する。


「白岩真白さん、此度SSSランクに認定されましたが、今のお気持ちは?」

「大変嬉しく存じます」(棒読み)


「何故今まで表舞台に出てこなかったのですか?」

「目立つのを忌避していました」(棒読み)


「過去のレイドボス単独討伐はどうして挑まれたのですか?」

「私の私情です。理由の方は、申し訳ありませんが、黙秘されていただきます」(棒読み)


「SS級スタンピードではどうして表舞台に?」

「私が親しくしている知り合いが危険な状況なのに、終息できる力があるのに目立つのを忌避するのが嫌でしたので、覚悟を決めて挑みました」(棒読み)


 真白に対しての質問は、レイドボス、スタンピード、フェアバンクスの3つが主で、時々生産職での活動内容の質問がくる。プライベートなどの質問は黙秘している。しかし、質問への返答が全て棒読みだ。

 だが、少しずつ質問内容が真白の経歴から別の方向に変わる。


「いつから魔力の可視化ができるようになったんですか?」

「去年の秋です」(棒読み)


「銃を主に使っていますが、剣なども使えるんですよね? それもかなりの技術で…何かやられてたんですか?」

「実戦経験と訓練の結果です」(棒読み)


 どんどん真白の戦闘面の技術や手の内を探るような質問が増えてきた。

 真白は棒読みではあるが、伏せる所はちゃんと考えて発言している。

 そして、予想はしていたが、ついに一人の記者が厄介な内容の質問が出た。


「SS級ダンジョンスタンピードやフェアバンクスダンジョン解放で使っていたあの侍や烏、…『邪魂シリーズ』? と、言いましたか……あれはいったい何なのですか?」


 桐島達は内心で、『やっぱきたか』と、思った。真白も緊張の余り、棒読みで返答していたが、この質問には真剣になり———


「はい。…簡単に言えば、アレは私が造り出したホムンクルスみたいなものです」


 ———この会見で初めて棒読みせずに返答した。

 そして、たった一体だけでも超戦略兵器の様な力を持つホムンクルスを、真白が造り出したと聞いた記者達は、我を忘れ、次々へと激しく質問し出した。


「あれはいったいどのように造り出したのでしょうか?」

「他にも何体かいるのですか?」

「見た目も能力もかなり危険そうなのですが、アレは本当に大丈夫なんですか?」

「いったいどのような経緯で造り出したのですか?」

「あの様な力を貴方個人が持っている事について何か思う事はありますか?」

「あの力を個人戦力として持っているのは、倫理的にどうかと思うのですが?」


 激しさを増した記者達は挙手制など関係なく質問をしていく。中にはやや批判する様な質問もあった。流石にヤバいと思い桐島が止めに入ろうとしたが、———


「…落ち着いて下さい。この会見は桐島会長が私の事を配慮して挙手制にしていただいています。私は応えられる事は全て応えますので、挙手してから質問をして下さい」


 ———真白の発言で記者達の勢いが少し落ち着き、会場が先程より静かになる。

 記者達もどうやら、いつもの癖で我を忘れていたが、真白の発言で落ち着きを取り戻した様だ。


「先程の質問、『邪魂シリーズ』の製造ですが、申し訳ありませんが詳しくは話せません。ただ、使用してる素材なのですが、アンデット系のダンジョンで階層ボスが稀にドロップする黒い球が主です。私の特別なスキルと【鑑定】スキルを併用して見たら、『亡者の邪魂』と言い『死者の怨念や恨みなどの邪念が魂の形をした物』としか出ませんでした」


 真白はアンデット系の謎のドロップ品の情報を話した。


「造り出すのは私でも非常に難しいとだけしか言えません。今、私の手元には全部で9体いますが、1年半近く研究して造っていて、まだ全てを理解してる訳ではありません。手元にいる子たちは、暴走せずに歯止めが効く子達です。失敗してきた子たちは歯止めが効かず、Aランクモンスター程の力を持つモンスターの様に暴れ出すので処分しています。今まで最低でも1,000以上は処分してきました」

 

 それを聞いて会場の記者達はゾッとした。一応ある程度話しを聞いている翠や相良、桐島にルーシーもそこまで危険な物とは思ってもみなかったみたいだ。

 真白の生産職としての腕はどの分野も本職顔負けだと世間に知られている。しかし、『錬金術師』の分野のホムンクルスが、真白でさえ困難な物で、失敗すると危険だと知って、全員が驚きと恐れを感じた。


「……え〜〜、造ろうとした理由なのですが、———」


 真白が会場の雰囲気を察して、言うつもりのなかった事を言う。


「———初めは、メイドを造りたかったんです」


「「「「「「「「「…は?」」」」」」」」」


 会場中が龍也達のように知っている人以外の者達が一斉に頭の中が『?』になった。

 しかし、このお陰で、会場の者達の感情が『驚き』と『恐れ』から『困惑』に変わった。


「当時、生産面と戦闘面の両方とも行き詰まっていた私は、せめて身の周りのサポートをしてくれる人が欲しくて、そんな時、石井さんから『亡者の邪魂』の鑑定を頼まれた時、『これだ!』と、思ったんです。このドロップ品は元はモンスターとはいえ、元は生物の魂だから、体を造って魂を定着させればなんとかなると思ったんです。………しかし、『邪魂』と言うだけあって、定着してもモンスターの様に襲ってきました。200体以上を色々と試しても結果的に現段階では無理と判断しました。…でも、現在もメイドを造れるように頑張って研究してます」


 記者達は、造るきっかけは理解したが、『何故そこまでメイドを欲しがるの?』と、疑問に思う。


「それで、当時下層で行き詰まってたので、メイドが無理だったら、戦闘面で戦える駒を作ろうとして色々やってたら、偶然できたのが『邪魂シリーズ』です。先程申し上げましたが、造るのは非常に難しく、あの子たちには【従属化】のスキルを付与して歯止めを効かせいます。それでも失敗することが多く、余程の事がない限り使うのを控えています。しかし、もう9体も居るので造るのを控え、今ではメイド造りにより一層専念しています」


 会場の者もこれを配信などで観ている視聴者達も理解はした。だが、どうしても疑問に思う事があった。


「………あの……何故そこまでメイドにこだわるのでしょうか?」


 一人の記者が全員の疑問を代表して質問をする。その質問に真白は、———


「当然、身の周りのお世話をしてくれるなら、やっぱりメイドがいいからです!!」


「「「「「……………………………」」」」」


———ほぼ自分の願望を気合いを込めて、堂々と言った。


 その後は、何事も無く会見は終わった。

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