第53話 瘴雲滅雨魔喰い烏
「『それでマシロ、具体的にはどんな作戦でいくの?』」
結界の近くまでので道のりで、ルーシーが真白に訊く。
「作戦という作戦は無いです。私達はただ終わるまで待つだけですから」
「……白岩さん、もしかして貴方の奥の手、龍也君から聞いてる。確か、『邪魂シリーズ』でしたか…またあの侍を使うのかい?」
「はい。ですが、今回は違う子を使います。魔刀侍だと周りの地形や自然などが確実に焼け野原か荒野になるので、今回の件には不向きです」
桐島の質問に真白は肯定したが、どうやら違う子を使うらしい。
「今回のフェアバンクスダンジョンは、主に獣型のモンスターです。しかし、筋力や俊敏よりも魔力系統のステータスが高いのが特徴です。魔力量が多いと魔刀侍の弱体化能力でも時間が掛かります。ですが今回の子は違います……あ、ちょうど着いたので説明は見ながらで」
こうして、真白達は結界近くまで来た。
「さて、……桐島さん! カメラ配信始めて下さい!」
桐島が準備したいたカメラを『LIVEモード』にしてカメラを回す。これは生中継で、各国の探索者協会や動画でリアルタイムで配信されている。
「では、フェアバンクスダンジョン災害地区解放作戦、開始します!」
真白がカメラに向かって宣言して、作戦を開始する。
そして、ベルトポーチから『邪魂シリーズ』の水晶を出した。
「ちょ!? し、白岩さん! 流石にここでそれを解放するのは危険なのでわ!?」
「心配ありません会長さん。この子は問題無いです」
真白が取り出した漆黒の水晶には《3》の数字が書かれている。
「出番だよ。……邪魂シリーズ、No.3! 解放!!」
真白が水晶を上に翳すと瘴気が溢れ出る。そして、瘴気が形を現す。そしてそこには、———
「
———瘴気を纏い真紅の眼をした、一羽の烏が現れた。
「さぁ、…行きなさい」
『くぅぁぁぁーー!!』
そう言って、魔喰い烏(略:瘴雲滅雨魔喰い烏)は、元気良くダンジョンの方向へ飛んでった。
「『マシロ! あの黒い鳥は何!? この前の侍みたいに瘴気を纏ってだけど』」
「白岩さん……あの烏? にはいったいどういった能力があるのかね?」
ルーシーと桐島が真白に魔喰い烏について問い掛ける。
「それはLIVE動画を見ながら説明します。……あっ…ちょうどダンジョン上空に着いたみたいです」
真白と魔喰い烏の様子は、現在各国の探索者協会だけでなく、世界中のほとんどの探索者が見ている。
そして、真白はカメラに向かって———
「それでは、始めます」
———作戦開始の宣言をした。
そして、真白が水晶に向かって———
「
———何かを命令するように言った。
「『マシロ…どうしたの?』」
「まぁ、見ていてください」
「『?……え?』」
突如、遠くのダンジョンの方向で、黒い雲ができた。
そして、魔喰い烏を追ったカメラの映像を見てみると、魔喰い烏が全身から瘴気を放出している。そして、あっという間に結界全体の上空を瘴気の雲で埋め尽くした。
「白岩さん…アレはいったい。…それに、水晶に向かって命令していたが」
「『マシロ…何なのアレ!?』」
「慌てないでください。ちゃんと説明します」
真白は桐島とルーシーを落ち着かせ、説明する。
「まず、この水晶ですが、一部の『邪魂シリーズ』は今回のように離れた所や姿を見せず戦う個体もいるので、【通信】スキルを付与してこちらの命令を伝える事ができます。そして、あの雲は魔喰い烏の特殊スキル【瘴気雨雲】です。あの雨雲は任意の範囲まで広げる事ができ、その雲の中が魔喰い烏のテリトリーになります」
真白が言い終えると、雲が広がった範囲内で黒い雨が降り始めた。
「今ちょうど降った黒い雨、これも特殊スキルで【黒滅雨】と言います。このスキルは、【瘴気雨雲】の範囲に居る動物だけを、瘴気の雨で衰弱死させます」
映像を見ながら、全員が真白の説明を聞いている。
「ご存知だと思いますが、瘴気は動植物には有害です。探索者も瘴気があるダンジョンでは充分な準備をするのが当たり前です。しかし、あの雨は動物だけ、つまりあの結界内にはモンスターしか居ないので、モンスターのみを衰弱死させます。なので、周りの自然にはまったく害はありません」
真白は淡々と説明を続ける。
「しかし、フェアバンクスダンジョンのモンスターは魔力量が多くて弱体化に時間が掛かります。しかし、魔喰い烏にはもう一つ特殊スキルがあります。それ———」
「『え!? 結界内の魔力濃度が急激に下がってる!』」
「「「「「「え!?」」」」」」
ルーシーの言葉に全員が驚く。当然の反応である。結界はモンスターだけでなく、ダンジョンの魔力が漏れないように張っている。なのに正常な結界の内部で魔力濃度が下がったら驚くだろう。
「驚くのも当然です。ですが、それが魔喰い烏のもう一つの特殊スキル【魔力喰い】です。このスキルは空気中やモンスターの魔力を吸い取って自分の力に変換します。そして、魔力を吸い取られたモンスターは魔力抵抗が低くなる為、衰弱死が早まります。……………ちなみに、人間も含まれます」
真白が説明している間に、映像ではどんどん事が進んでいく。
雲の中は瘴気が濃くなり、雨の降る量は増してモンスター達はどんどん衰弱死していく。
「映像内では、雲の中を素早く飛んでる魔喰い烏を魔法が使えるモンスターが魔法攻撃してますが、魔法はあの子にとっては餌であり、ただ強化させるだけです。それに、『邪魂シリーズ』の共通スキル【瘴気回復】と【瘴気強化】で例えダメージを負っても雲の中にさえいれば即回復します。そして、【魔力喰い】で得た力で瘴気を濃くして、自身のスキルなどを強化します」
そして、映像ではもう終盤に入っていた。
「あの子を倒すには、上空の雲の中から引きずり出して、物理攻撃するしか方法はありません。弓などの遠距離物理攻撃するとしても、黒い雲の中から保護色同然で素早く飛んでる魔喰い烏は見つけにくく、例え見つけられたとしても、上空数百mに居る魔喰い烏を捉えるのは容易ではありません」
「「「「「……………………」」」」」
もう、誰も声が出なかった。こんな一方的な戦力に恐怖しか感じない。
そんな沈黙の中、映像では全てのモンスターが倒され、それと同時に雨雲も消えた。
「終わったみたいです。…戻って来て」
真白が水晶を通じて魔喰い烏に命令する。1分もしないうちに真白の所まで来て。真白が左腕を上げるとそこにゆっくり止まる。
「お疲れ様。戻って…封印!」
魔喰い烏は役目を終え、真白に封印された。後には、モンスター一体も居ない、かつてのフェアバンクスの光景が目の前にあった。
そして、役目を終えた真白はカメラとアメリカの探索者協会の人達に大きな声で言う。
「作戦は終了しました。結界内の魔力濃度は殆ど無いのでモンスターが溢れ出ることは無いと思いますが確認はしてください。…後、先程突然要求れた通り、自然や地形に戦闘痕を残さずに災害地区を解放しましたので、私のSSSランク承認の件を認めて頂けますよね?」
「『ッ!…えっ、あ、…いや、その……』」
「して頂けますよね?」
「「「「「ッ!!」」」」」
真白の口元は笑ってはいるが、仮面の下の目は決して笑って無い。やはり、アメリカ側の態度が余程気に入らなかったらしい。これを聞いてる周りの者や配信の視聴者達の一部は怒りを感じる程だった。
「『…………は、はい』」
こうして、真白は無事に災害地区解放をやり遂げた。
—————————————————————
邪魂シリーズ
No.1 : ?????
No.2 : ?????
No.3 : 瘴雲滅雨魔喰い烏 通称:魔喰い烏
No.4 : ?????
No.5 : ?????
No.6 : 黒炎瘴獄魔刀侍 通称:魔刀侍
No.7 : ?????
No.8 : ?????
No.9 : ?????
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます