第52話 真白の自信とルーシー視点
「白岩さん、流石にこの要求を受けて戦うのは無理があると思うのだが……」
「『マシロ、流石に戦闘痕を残さず戦うのは不可能だと思うわ』」
桐島とルーシーは無理だと判断する。
「『こちらは、できればと言ったので、無理しなくてもよいのですよ』」
相手はそう言うが、挑発するように言ってきている。けれど、今回の災害地区解放を言い出したのは真白である。だから———
(まったく、……予想通り過ぎて呆れる)
———こうなる事ぐらい、提案した時点で予想していた。
真白と関わりのある者は、真白の頭の回転の異常さを知っている。しかし桐島とルーシーは会って数日だ、知らないのも当然である。
「大丈夫ですよ。…まず、この案を提案したのは私です。…そのような事を言われるのは、提案した時点で予想していました」
「『!!』」
今度は相手が驚く顔をした。桐島とルーシーも『マジで!』みたいな顔で驚く。
「過去のフェアバンクスが観光地として有名だった事ぐらい普通知ってます。だから当然戦闘痕を残さず戦うのは予想できて当たり前です」
それに、真白は当時の事を知らないが知識だけでは知っている。オーロラやトナカイ、温泉など色々な観光スポットがあり有名だ。そんな良い所をメチャクチャにしたくないと思っている。
「だから任せてください。その為の策もしっかりあるので」
————————
〈ルーシー視点〉
私が彼女を見たのは、S級ダンジョンの深層レイドボス単独討伐の動画だった。
正直倒す事なんて絶対不可能だと思ってた。現実的に考えても有り得ないし、しかも彼女は『錬金術師』だ。生産職の中でも不遇のジョブが何故深層にいるのかが疑問だったが、実際に居るから仕方なく受け入れた。
私だって、深層レイドボスの単独討伐はしない。『魔剣王』は、深層レイドボス単独討伐で実力を世界中に認められ、更に数々のダンジョン攻略に貢献してきた事からSSSランクになった。
しかし、彼が単独討伐したのはB級ダンジョンだ。S級ダンジョンのようなやばい相手じゃない。ダンジョンのランクはE〜B級はただ階層の数が増えていくだけ。しかし、A級からは格段にモンスターの強さが変わる。B級ダンジョンの深層レイドボスは、SS級ダンジョン深層の階層ボスクラスの強さがある。なのにS級なんてはっきり言って自殺行為。『魔剣王』もレイドボスの単独討伐は苦しい戦いだったと言っていた。
けれど、彼女は成し遂げた。S級ダンジョンレイドボス単独討伐を。
鳥肌がたった。私の本能が理解した。彼女は私より強いと。私は同じ事ができるかと訊かれたら迷わず『NO』と応える。それだけの実力を見せられたのだから。
そして、動画の騒ぎから約2週間後、日本でSS級ダンジョンのスタンピードが発生したとニュース速報があった。前代未聞のSS級ダンジョンのスタンピード。20年前、私が探索者になりたての頃のA級ダンジョンのスタンピード事件はよく覚えている。過去最悪の死傷者を出し、広範囲の地上がモンスターが蔓延る災害地区になり、人が足を踏み入れる事が困難なSSS級ダンジョンになってしまった。
だが、スタンピードが始まるとあり得ない事が起きた。スタンピードの影響で強さが増した一般モンスターだけで無く階層ボスにレイドボスまで溢れる異例の事態だった。
日本の協会やクランはこれ以上の被害が出ないように他国にも救援を出した。私もイギリスの協会のお抱え探索者として、救援要請が入った。勿論受けるつもりだったが、偶々観ていた配信でおかしな事を言っているのが聞こえた。
———『このスタンピードを終息する事ができる探索者が来る』と。
頭の中で彼女がよぎった。まさかと思って聞いていると、『史上最強の錬金術師』と言っていたので彼女だと確信した。
そして、また彼女の戦闘を見た時、次元が違うと思った。特に魔力の可視化はSSSランクの必須技能。可視化して上手く操作すれば色々な形にして武器の一つとして使える。これは、SSSランクの中で私が一番得意な技術だ。私は主に魔力を盾にしたり、拘束するのに使う。
しかし、これで彼女の実力はSSSランクに等しいと確信した。
だが、それよりも目を疑ったのは、圧倒的な魔力量だ。凝縮してるのにまだ身体から漏れ出る魔力。間違いなく魔力量はSSSランクの中で…いや、世界で一番多いい探査者だろう。
その後の戦闘は一方的だった。元凶のダンジョンでも、彼女の奥の手らしき『侍』がやばかった。これが一個人の力なのが信じられないと一瞬疑ってしうほど。
けど、同時に彼女に直接会ってみたいと思った。だから協会に無理を言って、会わせてもらえるように頼んだ。そしたら、彼女のSSSランク認定に反対してる国があるらしく、なら私が推薦すると宣言した。『魔剣王』と『閃光』にも連絡を取ったら、彼等も賛成していた。
そして初対面の日、ちょっとしたイタズラ心でサプライズで会うつもりで日本の協会の会長室の隣の部屋で気配を完全に隠して待っていたが、気づかれているとは思ってなかった。そしてハッキリした。もしかしたらこの子は、SSSランクの私達より頭一つ二つ強いと。可視化した魔力の操作はまだ拙かったが、魔力量の問題で上手く操作できないのだろう。
そして、彼女をSSSランクに推薦する為話しをしに来たが、問題の反対している国、特に大国アメリカ。彼女はその国に遺恨を残さず反論されないやり方で説得させる案を出した。日本の協会と私が考えた案は解決するのは悪くないと思っていた。しかし彼女は先の先の事まで考えている。頭脳も優れているなと思った。これで高校生、私より賢こくて立つ瀬がない。
彼女の提案した、20年前、過去最悪の被害を出したスタンピード。フェアバンクスダンジョンの災害地区解放。現実的ではないが、もしかしたら彼女ならやってくれるだろうと期待したが、アメリカ側が現地で突然新しい要求をしてきた。絶対わざとだと思う。ずる賢いにも程がある。しかし、私は今回何も言えない。日本とアメリカの問題に部外者が口を挟むなどできないからだ。
しかし彼女は、『いいですよ』と、自信ありげに言った。どうやらこうなる事まで予想できたらしい。
私は彼女の事をまだまだ理解していないらしい。この後彼女が何をするのか、今はそれが楽しみでしょうがない。
「『マシロ、本当に大丈夫なのね?』」
「はい。勿論です」
その時の彼女の目は、期待していいと思える程の強い自信が感じられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます