第51話  災害地区  

 桐島は、早速真白の案を国際探索者協会と各国の探索者協会に話した。しかし、ほとんどの国は『非現実で不可能だ』と言う。だが、中には真白の個人戦力、主に『邪魂シリーズ』を見た者は若干の戸惑いもあったがそれでも非現実だと思っている。

 しかし、アメリカが、『もし解放できたのなら、承認しても良い』と言った為、真白の案で進める事になる。

 ただし、作戦の決行する時は、協会から何名か現地に同行するのと、生配信してもらう事を条件に付け加えられた。それぐらいは大した事ないので了承した。

 そして、話しが決まって一週間後の現在、真白はアメリカのアラスカ州にあるフェアバンクス国際空港にいる。真白が面倒な事は早く済ませたいとの事で、さっさと今回の件を終わらせる事にした。

 しかし、ただダンジョンの解放作戦には、桐島含め数名の役員が付き添いで来た。因みに、翠、龍也、相良の3人は来ていない。それは別にいいのだが、何故かルーシーまで着いて来ることになった。どうやら、真白の戦闘を直接見たいらしい。

 そして、一番信じられないのが真白の家族3人である。真白は今回の件を解決する為にアメリカに行くと言うと、なんと母が『ならいっそのこと、夏の思い出に家族旅行しましょう』と言った。父も長期休暇を取れると言うし、紗奈までもがはしゃいで喜んでいるので、着いて来ることになった。フェアバンクスは観光地で有名なので、真白は協会の依頼? で、しばらく一緒に行動出来ない為、3人が旅行中不便にならない様にと『通訳ヘッドセット』を渡した。


「それじゃあ真白、私達は一足先に観光してるわ」

「真白、そっかりやるんだぞ」

「お姉ちゃん、頑張って!」


 白岩家の真白を除いた3人は、協会が用意してくれたホテルでチェックインを済ますと、さっそく観光にのりだした。一応、真白も最終日は一緒に観光する予定である。


「『妹のサナ、可愛かったね!』」

「ありがとうございます。自慢の妹です」


 何より驚いたのは、紗奈がルーシーに懐いたことだ。紗奈は真白と違って人見知りでわなく、人懐っこい所があるので色々な人に可愛がられる。しかし、直ぐに懐く事は無いはずなのに、紗奈は何故かルーシーに直ぐ懐いたのだ。真白は珍しいのを見た気分だった。


「さて、我々も現地に向かいましょう」

「『そうね。さっさと行きましょう』」

「わかりました」


 真白達は手配された車で、現地へ向かう。

 そして約30分、場所はフェアバンクス北部のバーチ・ヒル保養地近郊。20年前のスタンピードで、今では鳥の鳴き声すらなく、大規模な結界の中にモンスターがいて、定期的に派遣される探索者が結界の強化と魔力の浄化をしている。

 現地に着くと、アメリカの探索者協会の役員らしき人達が出迎えた。


「『初めまして。私はアメリカ探索者協会会長を務めているオリバー・ジョーンズです』」


 真白達は以外な顔をした、まさか現地で同行する相手の中に、協会の会長がいるとは思わなかったからだ。


「初めまして、ミスタージョーンズ。私は日本探索者協会会長を務めている桐島冬夜です」

「『初めまして。ご存知だと思いますが、SSSランクのルーシー・モリスよ』」


 桐島とルーシーが自己紹介をする。


「『まさか、『絢爛の魔女』まで来られるとは思いません出した。お会いできて光栄です。ミスターキリシマも遠路はるばるようこそ。…で、そちらの彼女が…』」


 ジョーンズ会長が真白の方に視線を向ける。だが、その目は真白をまるで値踏みしている様な目だった。


「初めまして。白岩真白です。ご存知のかと思いますが、ジョブは『錬金術師』です」


 だが、真白はそんな視線など気にした様子は無く自己紹介をした。


「『…戦闘の映像は拝見したが、確かに強者のオーラだ。……しかし、『錬金術師』か(ボソボソ)』」

「どうかされましたか?」

「『いや、…貴方とミスターキリシマも随分と流暢に英語を話せるのだなと思いまして…』」

「それはこのアイテムのお陰です。自分が聞いた他国の言葉を翻訳してり、自分言った言語が相手の国の言語で聞いてもらえるようにするものです」

「『ほー、それは素晴らしい! 貴方が造られたのですか?』」

「…はい」

「『その若さで素晴らしいですね!』」

「申し訳ありませんが、自分にも時間がないので、現地に向かいたいのです。…桐島会長とモリスさんも忙しい人なので」

「『……そうですか。では参りましょうか』」


 真白は話しが変な方向に行こうとしたので話しを打ち切った。どうやら相手側は、戦闘職特有の強者のオーラを感じる事はできるらしい。しかし、『錬金術師』と言う所にはいい顔をしなかった。やはり、完全実力主義の国だけあって、生産職の見方が悪い。

 それから5分ぐらい歩き、少し離れているが大きなドーム状の結界が見える。


「やっぱりデカいですね」

「『そうね。けど、当時の事件はよく覚えてるわ。私がまだ10代で、探索者になりたての時だったから…』」


 真白は目の前の結界を見る。中は魔力の濃度が濃くて、モンスターもそれなりに居る。恐らくダンジョン付近はもっと居るだろう。こんなモンスターだらけの所を突破してダンジョンに行くなど普通なら自殺行為だ。結界内の魔力濃度も濃くて、ダンジョン内のモンスターも本来より強くなっている筈だ。


「『そうだ、もう一つお願いがあるのですがよろしいですか?』」


 ジョーンズ会長がこのタイミングで何か要求してくる。


「『実は災害地区を解放する時に、できれば森の木や地形に被害が出ないようにしてほしいんです』」

「「!!」」(桐島&ルーシー)

「………」(真白)


 嫌味たらしい顔で要求をしてきた。


「『フェアバンクスはアラスカ州で観光名所の一つです。主要産業は主に観光です。解放していただけるのは嬉しいのですが、地形や自然に被害出るのは少し困るのです』」

「ジョーンズ会長、何故このタイミングで要求されるのですか?」

「『何か後ろ暗い事でもあるのかしら?』」

「『いいえ、とんでもない。ただ、私はそうしてほしいだけです。フェアバンクスの復興する為にも、なるべく綺麗な状態で解放してほしんです』」


 ここにいる全員が思っただろう。『嘘だな』と、相手の最初の要求は、災害地区の解放と協会役員の同行だ。それがいざ、戦闘を始める前に新しい要求を出すのは、狙ってやっている。どうやら舐められてるらしい。

 真白は、相手が自分のような小娘にできないだろうと思っているが、映像を見ている為、保険をかけて、このタイミングで要求してきたと確信している。もし、解放できたとしても『自国の産業の一つである観光地をメチャクチャにされた』とかなんとかいちゃもんつけてくる気だろう。

 確かにこんな大規模な所で戦闘など必ず激しくなる。戦闘痕を残すななどと言うのは当然無理だ———普通ならば。


「わかりました。いいですよ」

「白岩さん!」

「『マシロ!』」

「『!!』」


 桐島とルーシーは焦りの顔をしていたが、ジョーンズ達は、驚いたものの若干笑っていた。まるで獲物が釣れた様な顔だ。

 だが、ここにいる全員、まだ真白のことを理解していない。この後に起こる光景は、普通では無いのだから。

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