第47話 探索者協会
8月中旬、外の気温は高い。30℃越えの日々が続く毎日、こんな日は家でクーラーを付けて涼しい部屋でゴロゴロしながら娯楽を楽しみ、時々生産活動をする。真白は、それが一番良い過ごし方と思っている。
しかし、そんな暑い地獄の空の下、真白は外出している。
「……暑いですね。…翠さん…」
「そうね。でも、目的地はもう少しよ」
そんな真白は、現在翠と共に、日本探索者協会本部に来ている。以前のスタンピード終息後に、話の場を近いうち設けるという事で、今日がその日だ。
高さが約20階ぐらいの探索者協会のビルが目の前に見える。その入り口前には、見知った顔が2つあった。
「あら、ましろちゃん。逃げずにちゃんと来たのね」
「…流石に逃げません」
「白ちゃん、暑い中お疲れ。お偉いさん達は準備できてるみたいだぜ」
「そうですか」
相良と龍也の2人と軽く言葉を交わした。
「龍也、外は暑いわ。中に入りましょう」
「そうだな。じゃ、行くか」
龍也の跡をつけてビルへと入る。室内は外と違って涼しく、温度もちょうど良い。
そして、どうやら龍也が受付の人と話し終えたらしく、傍にいる役員に案内される。
真白は、今から会う事になるお偉いさんと話すのを覚悟して来たとはいえ、内心はかなり緊張している。何を訊かれるのかが不安でしょうがなかった。
そんな事をずっと思っていたら、あっという間にビルの最上階まで来てしまった。エレベーターを降りると、見た目だけでもわかるくらいの偉い人の部屋の扉の前までやってきた。
ここまで案内してくれた役員が扉をノックする。
コン! コン!
「桐島会長、石井龍也様とその他三名のお客様をお連れしました」
「…入りたまえ」
ガッチャ…
(……ん?)
真白は室内に入って違和感を感じたが、けれど後回しにした。
扉を開けると、部屋の中央のソファーの上座の前で、立って出迎えた50代後半の男性がいる。
「龍也君、退院おめでとう。身体に何とも無くて良かったよ。翠さんと天月さんも先日ぶりですね。お疲れでは無いですか?」
「大丈夫です。桐島会長」
「桐島さんもお疲れでは無いですか?」
「大丈夫だ。スタンピードの事後処理も大体片付いた。後の細かい事は全部部下達に任しているよ。……そして、………」
桐島は真白に視線を向ける。
「先日会ったが、改めて挨拶させてもらう。私は日本探索者協会の会長を務めている桐島冬夜だ。この前のスタンピード終息に協力してくれ事に深く感謝する。『白の錬金術師』さん」
桐島が真白に頭を下げる。そして、今度は真白が挨拶をする。
「……本日はお時間を割いていただき、ありがとうございます。私は白岩真白、16歳で高校1年です。ご存知の通り、フリーの探索者の錬金術師です。この間はまともに挨拶もせずに帰ってしまい申し訳ありませんでした」
桐島と真白がお互い挨拶を終えた。しかし、何故か桐島は驚いた顔をしている。
「ん? 桐島さんどうかしました?」
「あ、いや…随分礼儀正しい子だなぁ、と思ってな」
「あー、そっか。白ちゃんと初めて話すと大抵の人はそうなるか」
「……うちの馬鹿息子に見習わせたい。…20歳過ぎても礼儀がなっとらんから……」
「ましろちゃんは、そこら辺の子達と一緒にしない方がいいですよ、桐島さん」
「…まあ、立ち話もなんだ、掛けてくれ」
桐島の言葉に全員がソファーに座る。
「さて、早速本題に入るが、…白岩真白さん、君とこの3人の関係と生産職としての実力はざっくりと聞いている。聞いても半信半疑な事だらけだったが、過去にも色々あったみたいだな」
「はい。…あと、名前は呼びやすい呼び方で構いません」
「そうか、…では、白岩さんと呼ばせてもらう。改めて、先日のスタンピードの解決に感謝する。私はまだ就任して間もなくて、事件が起きて大変だったんだ。本当にありがとう」
「私はできる事をしただけです」
「そう言ってくれると助かる。…それで、訊きたい事は沢山あるが、まず決めなければいけない事は、君を世間に公表する事なんだが……」
桐島は言い淀む。真白は、龍也に翠、相良と日本の主要クランのトップ達が後ろ盾になるほど親しい仲なのだから、扱いに困っているのだ。
その様子を見て、真白が口を開く。
「会長さん、公表については何も問題ありません。全てとは言えませんが、私は隠すつもりはありません」
「……本当にいいのかい?」
「はい。…ただ、自分の身内に迷惑をかけると、……タダじゃおきませんが」
「………わ、わかった…感謝する」
桐島は、公表についてはどうやら気を使わせてしまったと思った。しかし、最後に身内に関しての言葉に寒気を感じた。桐島の本能が悟った、『この子、ヤバい』と。
(公表するにも、そこら辺も注意しなければ。…後で龍也君たちと相談だな)
桐島は内心で色々と考える。けど、一人じゃ無理な事は、龍也や翠、相良を頼る事にする決めた。
「…それと、白岩さん。公表するにもまず、やってもらいたい事がある」
「……探索者登録ですね」
真白はどうやら、予想できていたらしい。
桐島は、真白が思った以上に頭がきれると、思ったのだった。
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