第39話  圧倒的な個の力

「間に合ったか…良かった」


 真白は空を飛び現地の近くまで来ると、レイドボスモンスターが暴れてるのが見えた。そしたら、近くに龍也が倒れていて今にもやられそうな感じだった為、速度を上げて龍也前にバリアを張り、モンスターを風の塊で遠くへブッ飛ばした。


「……白…ちゃん……」


 足下で満身創痍の龍也が呼びかけ、何かを言おうとするが、———


「石井さん! さっきアレは何ですか! 電話越しでも配信動画でも聞いていてもめっちゃ恥ずかしかったんですよ!!」


 ———真白が開口一番に龍也に対して会見での龍也の宣言の不満を言う。相当恥ずかしかったのか、真白は今にも地団駄を踏む勢いで龍也に責め立てる。

 その後ろでは、レイドボスが立ち上がり今度は真白に敵意を向けている。


「聞いてますか!? なんとか言って下さいよ! どうしてあんな事言ったんですか!?」


 しかし、真白はお構いなしに龍也に不満を言うばかり。


「真白! 後ろ!」

「ましろちゃん! 後ろ! 後ろを見て!」


 翠と相良の大きな掛け声を掛けるが、気にした様子は無い。このままじゃ不味いと思って翠達が助けに入ろうとするが。


『キュイィィィィィ〜〜〜‼︎』

「うっさい! 今取り込み中だよ! このクソ植物!! 『エアブロウ』!」

『キュッ‼︎』


 助けに入ろうとしたが、真白が相手の攻撃に合わせて【風魔法】でカウンターをした。そして、結界近くまでまたもレイドボスは吹っ飛ばされた。

 見ている人達は何が起きたのかすら理解してない。けど、翠と相良は慣れているのか、二人に近づく。


「真白! 本当いいタイミングで来てくれたわ!」

「石井君、生きてる!? ましろちゃん、本当にいいタイミングだったわ。…けど、今はあっちに集中して」


 真白は二人に言われ、やっと敵の方を向く。


「しぶといですね? あのモンスター。レイドボスですか?」

「えぇ、下層のレイドボスよ。…しかも50階層の…」

「そうですか……」


 真白は澄まし顔でそう呟く。


「……ハァ…ハァ。…白ちゃん、…助かったありがとよ」

「石井さんは後ろで休んでてください。満身創痍なんですから。言いたい事は言います」

「…わかった。…ところで白ちゃん。この数、一人でいける?」

「結界の中で目の前に見えるモンスターはざっと5,000〜6,000ぐらいよ。流石に一人じゃ無理だと———」

「多分、大丈夫です」

「「「えっ!?」」」


 三人揃って声上げた。


「いや、真白…この数は流石に…」

「ましろちゃん。流石にこれ無理だと思うわ」

「白ちゃん…今ここでは出さないでくれよ」

「本当に大丈夫です。……ただ、ちょっと離れていてください。…石井さん、これ外します」


 真白が見せたのは、右足首に付いてるアンクレットだった。


「えぇー! そ、それ外すの!? それは流石にダメだろ!」

「大丈夫ですよ。この間のクソ獅子の戦いのお陰で少し成長したんです。…大丈夫なのは確認済みです」

「……はっ…もう白ちゃん一人で全部終わりだな。…翠ちゃん、天月さん、離れましょう」

「え! ど、どうして?」

「取り敢えず翠ちゃん、一旦離れま———」


 パリーーン!


「「「!?」」」


 何と知らないうちに立ち上がったレイドボスが、結界の一部を外側から破壊した。そこから一般モンスターが先程より多く出て来る。それに、後方にいる戦闘職の殆どが疲弊し切っている。


「ま、不味いぞ!!」

「け、結界! 結界の修復を!!」

「だ、ダメだ! 間に合わない!」

「逃げろ! 死んじまうぞ!!」

「ダメだ! もうここで死んじまうだ!!」


 後方の戦闘職の殆どが戦意を無くし阿鼻叫喚の騒ぎだった。

 そんな中ただ一人、真白は前に出て。


「『ヘルフレアストーム』!」


 賢者の手袋ワイズマングローブから広範囲に渡る灼熱な業火の渦で、出て来た一般モンスターを消し炭にした。

 そして、この状況で真白は———


「『うろたえるな! 思考を止めるな! 生きる事をあきらめるな!!』 戦意を無くし、ただ逃げるのは無様な行ないだ!!」


 ———ただのノリで、マンガの推しキャラの某大佐さんの名セリフに自分のアレンジの言葉を付け加えて勇ましく叫ぶ。

 知らない者は真白の魔法に見入っただろう。しかし、知ってる者からしたら、『あれ? この子もしかして?』、なんて思うだろう。

 そんな中、堂々と立つ真白の内心は、———


(決まった〜! この状況でこのセリフ! 言ってみたかったんだ! いゃ〜、いいね!)


 ———やっぱり考えが厨二である。

 真白をよく知る者は全員、『またか』と、思うだろう。


「早く離れて下さい」


 そう真白に言われ全員下がる。そして、真白がアンクレットを外すと、変化がおとずれた。

 この場にいる上位の戦闘職は見ただけで真白が強者と感じた者はいるだろう。だが、強さの奥底までは解らなかったようだ。

 何故なら、今の真白は、自分の身体の周りに純白のオーラを纏う様に、自身のさせている。

 探索者の戦闘職は強さを基準にしたランクがある。それはEランクからSSSランクまで存在する。今回のスタンピードでランクが一番高いのは、翠と桐島の2人のSSランクだ。この二人を含め日本には、4人のSSランクの探索者がいる。

 しかし、魔力の可視化はランクの基準に則るとSSSランクになる。

 魔力を可視化できる事は、魔力そのものを操り色々な形で武器にすることができる。これは努力や才能だけで決して身につく物では無い。死の寸前まで戦って生還する戦いを何百、何千も経験した者にしか手に入れられない力だ。

 だが、普通だったら自身の身体の魔力がそのまま纏わりつくだけなのだが、真白の魔力は濃密に圧縮しているのにもかかわらず、まだモヤの様に。魔力量がデカ過ぎる証拠だ。

 それに、真白の魔力が強すぎて周りの地面が何かに押し潰された様に亀裂が入る。この光景を見ている者達は例外なく思った、『こいつ、本当に人間か!?』と。


「ふぅ〜〜〜…るか」


 真白の殺意の威圧が数千もいるモンスターに向けられる。そして真白は、魔法を唱えた。


「『インフェルノ』!」


 『インフェルノ』は【火魔法】の上位スキル【火炎魔法】の上級魔法で、視界に入るモンスターを焼き殺す広範囲魔法だ。だが、本来なら直径10mで高さ5mの火柱ぐらいの魔法なのだが、真白の放った『インフェルノ』は、直径約500mで高さ15〜20mぐらいの火柱だ。その圧倒的な炎でモンスターを消し炭にしていく。炎が止んで、弱くなってもしぶとく残っているのは、レールガンで撃ち殺す。

 しかし、レイドボスはそれでもしぶとい。満身創痍だが生きている。真白も魔力は全然余裕があるが、もしもの事を考え、ここは最小限の魔力で倒す。


「『ウインドカッター』(×10)」


 大きな風の刃10枚がレイドボスを切り刻み、レイドボスは呆気なく倒れた。そして、溢れる魔力を抑えて真白は後ろ振り向き叫ぶ。


「ふぅ〜。…天月さん! 結界の修復はお願いします。私は元凶のダンジョンを止めて来ます」

「え、えぇ。……わかったわ」

「では、私はこのま———」

「ちょっと待ってーーー!! ま、真白! あんた! 何その圧倒的な魔力!? いつから魔力を可視化できるようになったの!?」


 突如翠が叫んで真白に問いかける。当然の質問だ。だって、魔力の可視化をできるのは現在世界でたったの3人、SSSランクだけなのだから最もな質問だ。


「石井さんならある程度知ってるので、訊いて下さい。石井さん、疲れてる所悪いんですが私についての質問は任せていいですか?」

「おう。…任せな。白ちゃんは早く行ってくれ。……中継画面で観てるぜ。…あと、一応ボイス連絡できるように、インカムは繋げといてくれ」

「はい、わかりました。あ、結界の中には誰も入らないようにして下さい。…それでは、行って来ます。……『フライ』」


 そう言って、真白は元凶の元へ飛んで行った。


「龍也君、暁月さん、天月さん…彼女は何者なんだ? 確かこの間の配信で観た事あるが…」

 

 桐島は目の前で起きた事に思考が追いつかず、信じられずにいたが。とにかく自分の疑問に思った事を訊いた。

 その質問に龍也が応える。


「史上最強の錬金術師で……俺が唯一憧れた探索者です」

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