第38話  防衛戦②

 防衛戦が始まって約30分が経った。戦闘職は結界の外側からなら、一方的に攻撃が出来る為、なるべく漏れ出てきそうなモンスターを外側から攻撃する。それでも、漏れ出て来るモンスターもいる。そういうのは、『暁月の彗星』とダンジョン協会の戦闘職達が連携して対処している。

 しかし、この防衛戦に一番貢献していたのは、———


 バン! バン! バン! バン!


「ソレソレ! どうだ! クソ植物!」


 ———以外にも龍也だった。


「ソレソレ! …っ! おい! そこのデカいのがいる所の探索者達下がれ! 手榴弾を投げる!」


 ストン……ドッバァーン!


「よし! 深手を負った! 畳みかけろ!」


 翠と相良は、龍也がどっかの誰かとダブって見えた。桐島に限っては、目の前で戦っているのが本当に龍也なのか信じられなかった。

 他の者達も龍也は主要の生産職クランのトップでも戦闘はどうせ大した事無いだろうと思っていた。けど、今目の前で暴れてるのは生産職で、この防衛に最も貢献している。これを見ている者達は、龍也が生産職だからともう馬鹿にはしていない。


「オラァー! 俺特製の火炎放射器で焼け死ね!」


 テンションがおかしくなってる龍也だが、翠と相良は、龍也が周りを巻き込まない理性があってホッとする。むしろ、戦いながら指示も出している。誰かさんみたいに巻き込む前提の戦いはしないみたいで安心だった。ただし、テンション以外に限る。


「始まってそろそろ40分。龍也のあのテンションは引いたけど、……何とかなりそうですか?」

「何とも言えないわね。…石井君が頑張ってくれてるけど、モンスターの漏れ出てくる数が予想より多いわね。…とにかく、私達はましろちゃんが来るまで頑張るしかないわ。私達のクランも回復要員として頑張るから」


 翠と相良は、結局今は耐えるしかないと判断した。この調子をなるべく維持したいと思っていたが、———


 パッキーーン!!


「「っ!!」」


 ———離れた場所から、一部結界が壊れた音が響いた。


「ヤバいぞ!! 下層のレイドボスが結界を壊して漏れてきた!!」


 最悪の事態となった。まさか結界が壊されるのは予想出来なかったのだろう。そして、壊れた結界からは、レイドボスだけでなく、一般モンスターも漏れ出てくる。


「急いで結界を修復して!!」

「『暁月の彗星』の1軍〜2軍はレイドボスの相手! その他は一般モンスターを!」

「協会の探索者はAランク以上はレイドボスを! Bランク以下は一般モンスターの相手を!」


 相良、翠、桐島はそれぞれに指示を出した。


「魔法系のジョブは壁を作ってレイドボスと一般モンスターを分断させろ! 一般モンスターに気をつけながら、上位戦闘職が戦いやすい状況にするんだ! 翠ちゃん! 桐島さん! こっちは任せろ!」

「ありがとう龍也! そっちは任せたわ!」

「龍也君! 後は任せる!」


 結界修復は相良、一般モンスターは龍也、レイドボスは翠と桐島と、それぞれの班に分かれ指揮を執る。

 幸運な事に、結界修復はすぐに終わった為、神官系のジョブは回復要員として後方支援に徹する。結界が修復したおかげで、一般モンスターの数が徐々に減り始め、龍也達も予想よりも早く片付いた。


『キュイ~ィ~ィ~ィ』


 あとはレイドボスだけ。しかし下層のレイドボス。50階層のこいつは姿を確認しただけな為、情報が全く無い。一瞬の隙が命取りだ。


『キュイ~~~ィ』

「コイツ地面を沼にする! 注意しろ!」

「腐臭の酸や毒の霧も飛ばしてくるぞ!」

「落ち着いて! 魔法職で【風魔法】を使える者は霧を追い返して! 【土魔法】を使える者は沼を平らな地面に変えて!」


 翠の指示に魔法系のジョブ達が一斉に動く。沼を平らにする方法は、以前真白の付き添いで真白がやってたのを覚えてたので直ぐに指示が出せた。

 しかし、相手は下層のレイドボス。タコの足の様な太くて長い蔓が何十本とあり、うねりながら移動したり、蔓で攻撃してきたり、足元を沼にされて動き辛く、腐臭の酸と毒の霧でなかなか近づかない。魔法も相手の蔓で防がれてあまり効いていない。犠牲者がいないのは現状防戦一方で回復と物資の支援があるからだ。しかし、このままでは長くは続かない。そんな状況の中で、———


「全員離れろ!!」


 ———龍也の大声で全員反射的に離れたが、モンスターは何もして来ない。皆が龍也の方を見ると、龍也の手前に厳ついガトリング砲があった。


「俺の前に立つんじゃねぇぞ! おい! 後方の奴! さっき渡した発火オイルの瓶をヤツの足下に投げろ! 【火魔法】もちの魔法職はオイルを燃やせ!!」


バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!


 そう言いって龍也はガトリング砲を撃ち始めた。耳が割れるぐらいの発砲音が響き渡る。

 龍也の弾がレイドボスの蔓や体に徐々に傷をつけていく。レイドボスは防ぎたくとも発火オイルの火で体が燃え、魔法職からの攻撃と八方塞がり。誰もが思った、『このままいける!』と。しかし、———


『キュイ〜‼︎ キイキイキイ〜〜‼︎ キュイ〜〜〜〜!』


 ———レイドボスは蔓を倍ぐらい太くし、前方を薙ぎ払う様に思いっきり振った。だが、その範囲にいたのは、一人だけ。


「っ!! ガァっ!」


 龍也が攻撃をくらった。命は有るが動ける状態じゃない。レイドボスはこの中で最も脅威と判断した龍也を先に潰した。


「龍也!」

「龍也君!」

「石井君!!」


 他の者たちも龍也が攻撃をくらって一瞬気が乱れた。その隙に、レイドボスは大勢を立て直す。

 先程の仕返しとばかりに怒り狂って暴れるレイドボス。倒れてる龍也の救出に行きたいが近づけない。

 そして、ついにレイドボスは龍也に狙いをつけた。


(…あぁ、……俺はここまでか…)


 目の前で近づいて来るモンスターを見ながら龍也は内心で呟く。龍也の目は、死を覚悟した目だ。


(ごめん…翠ちゃん、天月さん、桐島さん…クランの皆んな………白ちゃん…)


 龍也は頭の中が走馬灯のようになる。


(これが俺の限界か…やっぱ白ちゃんみたいには…いかないか……無様だな………)


 モンスターが龍也の前に来た。


(俺も…本当は戦闘職になって、強くなりたかったなー。生産職になって諦めたけど、……あとは頼むぜ、白ちゃん。君の活躍を見れないのは悔しいが、……君なら大丈夫だよな。……だって、君は俺が唯一…———)


 レイドボスが龍也に止めをさす大勢に入り、そしてそのまま———


「『リフレクションバリア』! 『エアブロウ』!」


 ———レイドボスの攻撃は龍也の目の前に現れた透明な壁により吹き飛ばされ、そしてすぐに大きな風の塊がレイドボスを遠くへブッ飛ばす。


「…っ!!」


 まさに、物語の英雄ヒーローみたいな登場だ。死を覚悟した龍也の目の前に現れたのは、———


「間に合ったか…良かった」


 ———龍也が唯一探索者で、白を基調としたドレスと白銀のプレートのアーマードレスを着て、白い仮面を付けた少女の錬金術師……白岩真白だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る