第35話 覚悟
スタンピードが起きた。現在テレビではどのチャンネルもそればっかだ。
今回、前代未聞のSS級ダンジョンのスタンピード、その被害と規模は過去一番になるだろう。既に真白の家の川崎市の多摩区まで警戒注意報が出ている。
「皆んな大丈夫かな?」
真白は現地にいる知り合いが心配だった。どうやら佳織は未成年な為、今回の件は外されたらしい。けど、翠や龍也、相良の他に『暁月の彗星』と『生産組合』の知り合いも心配だった。
そして、暫くすると映像では、スタンピードを止めるらしい。しかも、『戦の剣』だけでと報道している。
「流石に無茶じゃないかな?」
そして、真白の予想通り、『戦の剣』は何もできずに多くの犠牲者を出して敗走した。
その直後、真白の家の地区にも避難警報が発令された。どうやら現地はかなり不味いらしい。
「…………………」
真白はテレビ画面を真剣に観出して、現状の危険度がどれくらいか予測した。
真白は工房へ行き、準備を始める。しかしその目は、覚悟をした目である。
準備を終えると、真白はリビングで避難準備をしている両親と妹に伝える。
「…お父さん、お母さん、紗奈……私、戦ってくる」
「「「!?」」」
三人とも当然驚き顔だ。
「ま、真白…ど、何処に行く気だ?」
「決まってるでしょ…」
「真白! あなたもう一度私にビンタされたいの! バカな事言わないで!」
「お姉ちゃん…また危ない事するの!?」
真白も家族の言葉に心が痛む。けど、ここは引かない。
「大丈夫…必ず帰って来るから」
「そんなのわからないわよ! 賢也だって、戦って帰ってこなかったのよ!」
「真白…考え直せ! とにかく避難するんだ」
「お姉ちゃん! いっちゃヤダ!!」
本来なら、三人の言ってる事が正しい。けれど、真白には真白で理由がある。
「お父さん、お母さん、紗奈。…今回のスタンピード、終息させる方法はある。けど、それは私が行かないとできないの!」
「頑固な我が儘もいい加減にしなさい! あなた一人行った所で何の意味があるの!?」
「お願い信じて! 今は時間が無いから説明できないけど! 私には出来る力がある!!」
「だからって、あなたを行かせられるわけないでしょ!」
真白と母の言い争いが続くが、そこに少し冷静になった父が話しに入る。
「真白…力があると言うが、母さんの言う通りお前が行く必要はない。なのに何故行こうとする?」
「…私の見た限り、結界はもってもあと1、2時間で確実に崩壊する。今から私達家族が逃げても、きっと間に合わない規模になる…」
「…続けなさい」
真白の父の空気が変わった。迫力がある真剣な顔つきだ。
「実は、私には今回の災害を止めるだけの力がある…それがあるのに何もせず、現地にいる知り合いが死んでしまうのは我慢ならない。…今まで目立つのがやだったけど、そうは言ってられない。今やらなければ一生後悔するから!」
真白は自分の思いを強く言葉にして父に伝えた。そして父は———
「…わかった。…なら、行って来なさい」
「っ! あなた!!」
「お父さん!!」
「…ありがとう……お父さん」
「真白、必ず帰って来れるんだろ。なら、知り合いを助けに行きなさい。…母さん、紗奈…真白は大丈夫だ。必ず帰って来る」
「あなた! 何を根拠に言ってるの?」
「真白の目を見たらわかる。覚悟と自信のある目だ。…それに、こうなったら真白は止められないだろ?」
「…………はぁ…わかったわ。…けど、必ず帰って来なさい」
「お姉ちゃん…(泣)」
「ごめんなさい、お母さん、紗奈…」
母と妹は不安でしょうがなかった。けど、どうすることもできない。
「真白、時間が無いんだろ。早く行きなさい」
「はい! 行って来ます!!」
真白は家を飛び出して、海老名へ向かう。流石に交通機関も止まっているためスキルで向かうことにする。
「『フライ』!」
真白の『賢者の手袋』の【魔法創作】で創った飛行魔法。一直線に空を飛んで向かう。配信を観てみると、何だか大変みたいだ。その時、龍也がなんか悪く言われてたので、電話した。
「あ、よかった、出てくれた。石井さん、会見映像観てます…結構追い詰められてますね?」
『やっぱり観ているか…。このタイミングは狙ったのかい? 白ちゃん?』
今回は、素材収集や獅子王の時の様にただの真白としての戦いじゃない。この日が、真白が一人の探索者として初めて戦う日であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます