第34話  災禍の始まり

 海老名ダンジョンから少し離れた場所に、クラン『戦の剣』のメンバーが立っていた。その数は、総勢約30,000人。


「テメェら!! 戦の準備はできたか!!」

「「「「おーーーう!!」」」」


 『戦の剣』のメンバー達の雄叫びが響き渡る。士気の高さは良いと言ってもいい。

 しかし、『戦の剣』のクランマスターは内心焦っていた。ここ最近何の活躍もなく、『暁月の彗星』に遅れをとるわ、謎の錬金術師が自分達より注目されるわ、探りをしてたら『生産組合』と『光の癒し』が敵になるし。挙げ句の果て下っ端達が騒ぎを起こして責任問題の声多々ある始末だ。

 何とかして名誉挽回しないと思い考えていたら、今回のスタンピードである。これは使えると思いある事を思いつく。それが、『戦の剣』だけでSS級ダンジョンのスタンピードを終息させる事だ。

 流石にメンバーの幹部の中には無謀だと言う者もいたが、スタンピードは少し強くなったモンスターが溢れるとはいえ、多くて1,000体ぐらいである。クランメンバーの数で押せばいけると考えた。そして、その考えに幹部達も賛成した。例え、個が強かろうが、数の暴力には勝てないと。

 そして、『戦の剣』のメンバーが準備を終えて約一時間、スタンピードが始まろうとしていた。この様子は自立魔導カメラでも見られている。


「お前ら! SS級ダンジョンのモンスターでも、これはスタンピード! 溢れ出てくるモンスターは上層から下層までの一般のモンスターで、数は例え多くても約1,000体ぐらいだ。『戦の剣』のこの数ならいける! そしてこの戦に勝利し、俺達が日本最強…いや、世界最強のクランとなろうじゃないか!!」

「「「「「「うおーーーーーう!」」」」」」


 メンバー達の士気は最高頂、クランマスターもこれならいけると思った。

 そして、スタンピードが始まった。


 ズッッッドドドドーーーーーーーンン!!


 だが、その爆音と同時に溢れ出て来たモンスターを見て、先程の勢いが一瞬で無くなり、代わりに絶望と死の恐怖が心の中を支配した。


 ガサガサガサガサガサガサガサドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ!


 考えが甘かった。『戦の剣』のメンバーは勿論、カメラの向こう側の主要クランと協会やその他の者達全員が予想出来なかった。そして恐怖と絶望を感じた。

 ダンジョンから溢れて出て来たモンスターは1,000どころではではない、ざっと見で数万はいる。しかしまだまだ増え続けている。さらにモンスターの中には、上層から下層のレイドボスまで溢れて来た。


「…あ、あ…うああ〜〜〜!」

「ギャーー、逃げろーーー!」

「た、助けてくれーー!」


 目の前の光景に『戦の剣』のメンバーが我先にと逃げ出す。しかし、烏合の衆と化した『戦の剣』達の逃走を相手は待ってくれない。


「うわー…うっ!」(ドンッ…)

「う! うわーー!」

「あ〜〜! あ、足が〜〜」


 麻痺毒を受けて倒れる者、蔓に捕まれた者などが皆蹂躙されていき、一瞬で食い殺される者もいれば、絞め殺される者、体内に閉じ込められ体液で徐々に溶かされる者など、悪夢の光景だ。

 結界との距離は2km程。……結果、生還できた人数は100人以下だった。その中に『戦の剣』のクランマスターの姿もある。生き残った者達もほぼ全員が重症を負い、中には精神が壊れた者もいた。

 モンスターの数が予想の遥か上だった為、結界の領域を更に広げ、現地の人々は大きく距離を取り撤退する。結界は半径5km程広げたが、まだ溢れているモンスターの数次第では心許ない。

 その後、協会の会長や翠、龍也、相良の主要クランのトップ達は、報道陣の前で生配信付きで緊急会見を行う。


「———この様に、協会としては、『戦の剣』に対しては誠に遺憾です。スタンピードについては、迅速に対応し、現段階では避難領域を広げ、他国からの救援も視野に入れております」


 会長の桐島冬夜は報道陣の前で今後の対応について大まかに語った。


「『光の癒し』からも、今回のスタンピードのモンスターの数が予想以上だっため、もっと警戒しておくべきだったと思います。…現在結界は半径5kmに展開しております。ですが現在、溢れているモンスターの数は増え続けている為、結界の領域を更に拡大するつもりです」


 相良もスタンピードの状況と結界の拡大をする事を述べた。


「『暁月の彗星』もできる限りの民間人の避難と結界から漏れ出て来たモンスターの対処をします」

「現状『生産組合』は、支援物資の提供に力を入れて、探索者や民間人のサポートを致します」


 それぞれが、この後の行動について報道陣に述べたが———


「今回のスタンピードを終息する手立てはないのですか?」

「被害はまだまだ増え続けるのでしょうか?」

「被害地区の住民の人々にはどのように対応するのですか?」


 ———報道陣は、事の終息のめどや被害地区の住民の対応が訊きたいようだった。


「被害地区の住民に対しては、避難場所の確保をしたのち、支援するつもりです」

「避難場所の確保のめどは立っているのですか?」

「現在は避難場所を提供して頂ける場所がないか各所に連絡しております」

「今回のスタンピードは終息されないのですか?」

「現状終息できる手立てがありません。その為、被害を少なくするために結界を———」

「その言葉はできないと捉えて宜しいですか!?」

「モンスターと戦うのが探索者ですよね!」

「———っ!」


 報道陣はなんとも理不尽な非難の声を上げる。桐島や相良は年の功がある為、これ以上下手な事を言うのは危険とわかっているのだが、まだ若い翠はそうではない。


「こちらも最大限の努力はしています!! けれど、今回のスタンピードは前代未聞の状況です! 今は終息よりも被害を少なくする事が重要で———」

「それはもうどうにもならないと言う事ですね!!」

「———っ!!」

「主要クランの探索者なのにもう諦めるのですか!?」

「スタンピードをもっと事前に止められたのでは!?」

「今の言葉は被害地区の住民への配慮が無いのでは!」


 翠の発言で報道陣の非難の声が更に増した。もう取り返しのつかない程に。翠は態度には出さないが冷静では無くなってきている。下手をしたらボロが出るくらいまで。


「『生産組合』の石井龍也さん。先程からほとんど黙ってばかりですが、どう思っているのですか? 生産職は戦えないから物資の支援しかしないと言うのですか?」

「………あ、…いやー、その……」

「貴方も終息は無理だとお考えですか? だから物資の支援に集中すると! それは偽善ではないですか?」


 黙っていた龍也にも飛び火した。まぁ、龍也が黙っていた事はそう捉えられてもおかしくない。

 しかし龍也も内心では終息させる事を考えていた。だが、あまり乗り気ではない。だから現実的に被害を少なくする事にしたいのだが、しかし葛藤してしまう。この状況をどうにかできる方法がだけある。でも、その後のリスクがどれほどのものか想像できない。


「………えーと。私としましても、こ———」


 (ピッピロピロピー♪ ピッピロピロピー♪)


 このタイミングで龍也の携帯に着信があった。龍也は着信の相手を見て考えた。龍也にとっては救いの電話だが、あまり出たくない。けど———


「っ! ちょ! 石井くん!」

「龍也君! 今は会見中だぞ!!」

「あんた、何電話なんか———」


 ピッ


 ———龍也は電話をスピーカーモードにして電話に出た。


『あ、よかった、出てくれた。石井さん、会見映像観てます…結構追い詰められてますね?』

「やっぱり観ているか…。このタイミングは狙ったのかい? 白ちゃん?」


 電話の相手は真白だった。


—————————————————————


 一ヶ月間ここまで読んでいただきありがとうございます。


 近況ノートにも書きましたが、2月からは2日に一話投稿にさせていただきます。

 最初は不安でしたが、自分の予想以上にPVをいただきましたので、これからも頑張りたいと思います。


できたら★もいただきたいです。

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