第32話  性能確認

 真白は現在、海老名ダンジョンに来ている。昨日の新装備の性能を確かめる為だ。付き添いに、翠と佳織が来ている。

 海老名ダンジョンは、植物系のモンスターだらけだが、SS級ダンジョンに認定されている危険なダンジョンだ。このダンジョンの公式到達階層は54階層なのだが、ダンジョン内は気温や地形が最悪で空気は腐臭や有毒だったりで環境は劣悪だ。それにモンスター達も殆どが巨大で環境に適しているので、深層は確認されて無いが、確実にあると思われる為、SS級認定だ。その為、日本で不人気なダンジョンでトップ5以内に入るだろ。

 しかし、何故か真白達は、63階層にいる。


「はい。ドーン」


 ドッーン!


「よし、次行きますよ」

「…えぇ、わかったわ……」

「ハァー……」


 真白の魔法が、半径何十メートルもある爆撃で火が燃え広がる。そして、火が消えるとそこは更地となっていた。それを大きく距離を取って見ている翠と佳織。

 この階層に来るまで、殆どこんな感じで進んで来ている。

 何故こんな事になったかというと。事の発端は、真白が新装備の性能を確かめる為、ダンジョンに行こうとしたのだが、前回の事で暫く潜るのは禁止されていた。だが、真白も流石に二週間近く潜らないと身体が鈍ってしまい、高品質の素材の収集が出来ず、死活問題になる。そして若干のストレスも感じていて、いつ感情が爆発してもおかしくない状況だった。仕方なく、付き添いをつけての探索ならと、許可が下りた。

 けれど、ここでいくつか誤算があった。翠と佳織はいつもどうり横浜ダンジョンだろうと思っていたのだが、なんと海老名ダンジョンに来てしまった。真白曰く、『A級ダンジョンじゃさまざまな環境や状況に対してどの程度使えるかわかりません。だから環境と地形が劣悪なSS級ダンジョンが向いてます』とのことだ。

 そして、もう一つの誤算が、翠達は海老名ダンジョンをまだ52階層までしか攻略していない。なので、転移陣で52階層までしか行けないのである。しかし、海老名ダンジョンの公式到達階層は54階層の筈なのだが、真白はどうやら63階層まで行った事があるらしい。翠と佳織は訳がわからなくなった。階層到達は記録は申告するのが探索者登録した探索者の規則だ、真白を問いただすと、『フリーの探索者がソロで攻略、ましてやジョブが錬金術師の私は目立ち過ぎます! それに、私はフリーなので、申告の規則は関係ないです』と言った。正論過ぎて言葉が出なかった翠と佳織。つまり、このままだと、二人は真白の迷惑どころか足手纏いになる。

 そこで、真白が提案した。


『では、52階層から63階層まで一緒にいきましょう!』


 翠と佳織は、何言ってるのコイツ、みたいな顔をしていたが、真白はただ52階層からなら色々な状況での使用を確認できてラッキーて感じなのだ。

 結局、翠と佳織が折れて52階層からここまで来たが、二人が見せられているのは、一方的な戦いだった。

 真白は新装備を二人に見せて鑑定の詳細も話した。『魔術士』の佳織は羨ましい顔をしていた。でも、いざ戦闘を始めると、こんな事になるなんて思ってなかっただろう。

 そんなこんなで、あっという間に63階層の階層ボスエリアまで来てしまった。


「さて、肩慣らしはおしまい。…本気出すか」

「真白、周りの事も考えて」

「少しは自重してよ、真白……」


 63階層の階層ボスはどうやら、3メートルほどの大きさで、大量の枝に付いてる棘だらけの葉で幹を隠し、葉っぱから麻痺毒、葉っぱの棘は神経毒で幻覚を見せて、蔓で攻撃か絞め殺すのだろう。しかも、この階層は湿度が高く地面は泥と沼の密林だらけの環境でやり辛く敵の見分けも付きにくい。けど、真白は、———


「『ウインドスフィアバリア』、『アースロード』…【飛翔】!」


 ———【風魔法】を元に【魔法創作】した『ウインドスフィアバリア』で自身の周りに全体に風の壁を作り麻痺毒と神経毒の棘の侵入を防ぎ、【土魔法】の『アースロード』で地面に平らな足場を作り、【飛翔】で相手の真上まで飛ぶ。幹に顔があるこのボスは葉っぱで全体を守ってる為、真白が真上にいる事に気づかずに無防備になる。


「『ファイアーレイン』」


 そして、業火の雨を受けて全身が火で焼かれる。このボスは本来なら、全身が燃えても地面の沼や泥を利用して火を消すのだが、真白の魔法により地面は硬い土になってしまった。真白は踏み場を作りたいだけだった為、これは偶然だった。

 やがて、階層ボスは塵となり、ドロップ品を残して消えた。


「勝利! …もう装備の確認は充分かな。次の階層の転移陣で帰ろう」


 そんな事を口にする真白から離れてる翠と佳織は———


「私達…必要だったかしら?」

「真白の付き添いの役目がありました」

「でも…何も出来なかったわね……」

「クラマス……確かこういうのて、寄生て言うんじゃ……」

「佳織、階層更新の申告はしないで、クラマス命令よ」

「了解しました」


 当然二人は、自身の実力に見合わない階層まで寄生して更新など申告する気がなかった。

 こうして、64階層の転移陣で三人はダンジョンを出て帰路につく。

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