第30話 龍也の私欲と新たな儲け話
〈龍也視点〉
今俺の目の前には、この先一生目にする事が無いであろう素材がある。
しかもこれは一人の少女の手によって造られたのが驚きだ。
「いやー、本当スゲェわ。…できる事なら売って欲しいぜ」
「無理ですよ。それは私の新装備に絶対必要ですから」
「わかってる。言ってみただけだ」
けど、こんな凄い代物があったら誰でも少しはそう思うだろう。中には手段を選ばずに手に入れたがる奴も絶対いる。
(けど、この素材を使いこなせるのが俺の知る限り白ちゃんだけなのが不幸中の幸いだな)
この事は俺の心の中に留めとくつもりだったが、……流石にちょっと欲がでちまうな。
「すまんが白ちゃん、…私欲な事なんだが、これって量産や他の連中でも造れるか? 品質はそこまで高くなくていい」
「う〜ん………多分無理だと思います」
「理由は?」
「確かに、理論上はできるかもしれませんが、これに関しては魔石の質が良かったから成功した所もあります。それに、これは【紋章術】を使いました。ただでさえあんな扱いが難しくて、持ってる人も少ないスキルです。…それに他のスキルの【錬金術】や【刻印】を【真理の天眼】と併用してやっと造れた物です。…だから量産は勿論、他の人が造るのはたぶん無理だと思います」
「あー、確かに無理だな。【真理の天眼】は勿論だが、【紋章術】は扱いずらいからな」
(もし、低品質でも量産できたら儲け物だったんだが、流石に問屋が卸さないか…)
まぁ仕方ない、諦めるしか無いか。これはただの私欲だ。できたらよかっただけだからもうやめよう。
「白ちゃん、その素材はなるべく早く使ったほうがいいぜ。変な輩に見られたら危険すぎるからな」
「はい」
「それじゃ、この話しは終わりだ。俺の我儘で呼び出してすまないな。…最後に茶でも飲んでってくれ」
流石に欲を出しすぎたな。俺もまだまだ自重できない所があるな。
「そうだ。…話しは変わるんですけど、石井さん、獅子王の骨はまだ残ってますか?」
「ん? ああ、まだ全く手をつけてないぜ。でも骨はあまり使い道ないから、その内アクセサリーにして稼ごかなと思ってる」
(白ちゃんにしては珍しい。一度分配した素材のことを訊いてくるなんて)
「触媒やアクセサリーよりも儲けが出るかもしれない話し……聞きます?」
「……聞かせてくれ」
どうやら、白ちゃんはこっちの話しが本題らしい。しかし何故骨?
「石井さんて、結構大きい土地持ってましたよね? その土地は何かに使いましたか?」
「いや、デカすぎて放置しっぱなしだ(俺の土地と骨に何の関係が?)」
「その土地に、モンスターの骨格標本の博物館を開いてみませんか?」
「…っ! ……詳しく聞こう」
なんだか面白そうな話しだな。やっぱり白ちゃん、頭が切れるぜ。
「モンスターの骨って、一部を除いてどれも価値がないじゃないですか。だからアクセサリーにして、私と同じ錬金術師達がスキルの向上のために【付与】の練習にしてますよね」
「あぁ、骨は売っても価値がないに等しいからな」
「そうなんですよ。…けど、私はモンスターの死体は丸ごと持って帰って解体して素材にするじゃないですか。いつも思うんです……この骨多いとか邪魔とか…」
確かに。白ちゃんにとっては邪魔でしかないか。…クリスタルコアの量産不可で儲けの見込み無し、モンスターの骨は余り価値が無く、俺は土地の問題も抱えてる。そこでこの提案。上手くいけばメリットが大きい。…これは一本取られたぜ。
「その話しはまた今度でいいか? 他の連中にも提案する」
「わかりました。それまでに私が狩って来れる標本に最適なモンスターの一覧をまとめておきます」
「そこは任せる。しかし、白ちゃんは良い話し持ってくるなー」
「私も早く思いつけばよかったです」
「「…………フッフッフッフ」」
あー、やっぱ白ちゃんも良い性格してるぜ!
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