第22話  『光の癒し』の聖女様

 翌日、現在午後1時、真白は東京都大田区某所に来ていた。


「はぁ〜〜〜〜〜〜………」


 しかし、顔がものすごく憂鬱で長い溜め息をはいた。


「はぁ〜〜〜…」

「真白、いい加減その溜め息やめて」

「だって……」

「気持ちはわかるけど、しょうがないよ。半分は真白の自業自得なんだから」


 付き添いの佳織とそんな会話をしながら歩いているが、足取りが重い状況である。これから行く所には、真白がものすごく会いたくない人がいるからだ。


「仮病で行くのやめようかな」

「むしろそっちの方が大変だよ。絶対あっちの方から突撃して来るから」

「……わかってる、言ってみただけ」


 真白は、午前中解体作業を今日の分を終え、現在はクラン『光の癒し』のクランハウスに向かっている。

 クラン『光の癒し』とは、メンバー全員が回復系のスキル持ちで、治癒医院みたいな慈善活動をしているクランである。元々は、戦うのが苦手な回復系スキル持ちの探索者達が、ダンジョンに潜りたくないから、【治癒】スキルで奉仕活動しようと始めたクランである。しかし何故かその活動が世間から評価され、知らないうちに、『治癒士』や『神官』などのジョブの集まるクランになってしまった。

 現在も戦うのが苦手な人も所属しているが、できる人もいるので、そういう人達はパーティの派遣の様な事をしている。


「真白、もう着いたよ。覚悟決めて」


 佳織に言われ顔を上げる真白。『光の癒し』のクランハウスが目の前にあった。もうどうしようもないので、進む事にしたが———


 バッン!!


「ましろ〜〜〜! 会いたかったわ〜〜〜!」

「げっ!!」


 ———正門の扉を勢いよく開け真白に向かって美少女が走って来る。しかし、その目は獲物を見つけた獣の目だった。


「ましろ〜〜! (バシッ!)…うっふ!」


 真白は条件反射で顔面にビンタした。真白に抱きつこうとした美少女は、真白のビンタでバランスを崩し転倒した。

 倒れた少女は、艶やかなゆるふわなミディアムヘアーに、清楚なワンピースを着ている。


「イッタタァ〜。…相変わらずいいビンタね、ましろ!」

「叩かれて毎回その笑顔は本当辞めてください。気持ち悪いです」


 珍しく真白が棘のある言い方をする。彼女は唯一真白が苦手にしている人物だ。主に真白に対するスキンシップと言動が。


「これでもわたし、あなたより年上よ〜」

「年上でも1つだけですよね。そんなの誤差です」

「つれないわね〜。そんな事より、久しぶりに会ったんだから、顔を近くで見せて! 抱きつかせて! 愛でさせて! …(バシン!)」

「近づくな! このド変態聖女!!」

 

 そう、彼女の正体は、真白の学校の先輩で、学校ではと言われているうちの一人であり、世間からは『聖女様』と呼ばれている。クラン『光の癒し』の幹部で『神聖術師』のジョブを持つBランク探索者、天月星歌あまつきせいかである。

 彼女は普段、清楚でお淑やかな振る舞いで、周りの人と上手く打ち解ける人だが、それは表向きの顔で、裏の顔は可愛い女の子を可愛がったりして、特に真白に対しては異常に執着し、セクハラ紛いな事を平気でする程、頭の中がオッサンレベルまで腐った脳みそを持つ変態聖女である。


「……はぁー、どうして毎回こうなるのかな……」


 蚊帳の外の佳織は独り言を呟いていた。

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