第21話 解体作業
真白は今、久しぶりに『生産組合』のクランハウスに来ていた。
「石井さんありがとうございます。母の説得を一緒にしてくれて」
「なに、いいってことよ! それに白ちゃんのお母さんは話しがわかるね。こちらの事も理解してくれて許可してくれたから」
「いえ、あの騒動を石井さんが先陣切って動いてくれたので、母は感謝してるんです。そんな石井さんの頼みなら断るのは申し訳ないと思ってますよ」
「それでも、終業式の終わったその日から泊まり込みを許すのは予想外だったよ」
真白は、獅子王の死体の解体作業をするため泊まり込みの説得を龍也として、母から許可を得た。7月いっぱいは解体作業に集中したいため、場所を態々借りた。
それは龍也にとってもありがたかった。流石に真白の時空間リュックの中に入れてあるとはいえ、レイドボスの死体である。ずっとそのままなのも怖いし、記者会見の時、堂々と死体を出したので、何件か素材を譲ってくれと連絡が来ているが、所有権は討伐した真白にあるので無理だと断りを入れている。
「石井さん、解体場はどこを使えばいいですか?」
「3つあるうちの一番奥の解体場を使ってくれ。使いやすいように、大きくスペースを空けてある」
「ありがとうございます」
真白は、言われた解体場に辿り着く。部屋の広さは獅子王の死体を出しても半分以上残る広さで、作業をするのに十分な広さだ。
「では、早速解体始めますね」
「おう! 俺は見ててもいいか?」
「いいですよ」
真白は時空間リュックから、獅子王の死体を出して、解体を始める。
「よっ…と!」
真白は、解体場にあったクレーンの様な機械で死体を逆さに吊るしたらまず血抜きをする。モンスターの血は錬金術師にとってものすごい価値のある素材だ。触媒にしたり、付与の効果を上げたり色々と使えるからだ。しかし、モンスターの死体を丸ごと持ってくる探索者は殆どいないので、市場に出回らない。ちなみに狩猟の血抜きは、腐敗を遅らせるためにおこなうが、モンスターの殆どは腐敗しない。これは、モンスターに備わってる魔力が関係していると言われているが、まだ詳しくは解っていない。
血抜きが終わったら、今度は洗浄だ。毛皮に付いた汚れを落とす。流石にこのデカい死体を一人で洗うのは大変なので、石井さんと数名見学してた人に手伝ってもらう。勿論スキルは使わずに洗ってもらう。【洗浄】スキルは一切使わせない。
洗浄が終わった頃には、夜の8時を過ぎていた。
「今日はここまでにします」
「そうだな…流石に疲れた。普段事務仕事が多いから体がヤバい」
「石井さんは少し運動したらどうですか」
「インドアの俺には無理だ! …とりあえず今日は終わりだろ。飯にしようぜ。食堂で美味しいの食べよう!」
「はい! そうします」
真白は今日の作業を終えて、食堂でえ向かう。何度か利用した事があるのでメニューも知っているため、何を食べるか考えながら食堂に着くと———
「コラ!! あんた達! 何汚い格好して入って来てるんだい! 飯食う前に先に風呂入ってきな!」
———食堂のおばちゃんに一喝され、今度は風呂場へ向かう。汚いのは真白もちょっとは気にするが、解体をやってると自然にそこの所がだんだん鈍くなってくる。佳織や麗花さんとか知り合いの女性からは、「女の子は身体を綺麗にしなきゃダメ」と、よく言われてる。
それから風呂場で、汗を流し、汚れをしっかり落として湯船に少し浸かったら上がる。そして真白は、ラフな格好で再び食堂へ向かう。食堂に入ると、龍也達は先に上がってたらしく、もう食事を始めてる。真白もお腹が空いてるので、素早くメニューを選んで注文する。野菜カレーとポテトサラダにした。
食事ができるのを待っていると、周りの視線が真白に向いている。真白が振り返ると慌てて皆視線を外す。特に男性陣が。
真白はあまり自覚してないが、真白の容姿はかなり良いと言える。そんな彼女が風呂上がりで、しかも今の季節は夏、半袖短パンの真白は華奢な体に綺麗な生足と肩から指先までの腕が傷一つない白い肌、極めつけは同年代の中では発育の良い胸が服下からでも強調されている。男性は勿論、同性の女性までも目を奪われる。
けど、声かけるようなことは誰もしない。何故なら、下っ端で真白を知らない連中は、真白がクランマスターの龍也やその他の幹部役員が自分達や他のクランのお偉いさんとの接し方が明らかに違うのと、その容姿が神秘的で声をかけずらい。一方真白を知る者は、真白が生産職として自分達より遥かに抜きん出て技術や知識があることに羨望している事と、真白が怖いからだ。
実は過去に真白に絡んだ男がいて、ちょっとイケイケな感じで真白に迫り、挙句の果て手を掴まれた真白は、反射的に平手、ボディー、蹴りを目に見えない速さで相手を吹き飛ばして大怪我させた事がある。ポーションで傷も痛みも治したが、クランメンバー全員が真白に手を出したら危険と思われている。
「はい。野菜カレーとポテトサラダお待ちどうさん」
「ありがとうございます」
真白は、トレーにのったカレーとサラダを持って空いてる席を探していると———
「真白ちゃん! こっちこっち!」
———いつのまにか食堂にいた麗花が真白にこっちに来るように呼ぶ。
真白は、有り難く麗花と相席する。
「麗花さん、ありがとうございます」
「いいのいいの! 真白ちゃんとは今日はなかなか会えなかったし。せめて夕飯一緒に食べようかなって」
「ありがとうございます。またボッチになる所でした」
「あはっはっはっー、皆真白ちゃんに声かけずらいんだよ」
「そうですか……それよりなんか周りの視線がこっち向いてませんか?」
「…私と仲良く相席してるからじゃない……(真白ちゃん…いくらなんでもその格好は無防備過ぎるわ! 同じ女なのに惹かれるもん!)」
麗花は真白への容姿や服装があまりにも無防備過ぎて、周りの男どもから守るため、自分が防波堤になるのであった。しかし、真白は無自覚なのでそれを知ることはない。
しばらく雑談しながら食事をしていると、龍也が真白達の席に来た。
「白ちゃん、話したいことがあるから少しいいか?」
「大丈夫です」
「どうも…ちょっと言いにくいんだが、…白ちゃんは獅子王の素材、…どれくらい欲しいんだい?」
「あー…」
真白は察した。龍也が今置かれている状況がどうなのか。
「ちなみに石井さん所にどれくらい注文来てます?」
「…もう多過ぎてわからん。世界中の大規模クランから各国の協会や研究機関、腕に自信のある生産職まで…全て対応してもあっという間に無くなっちまう」
「そこまでですか……けど我儘言えば、私も全て欲しいですが、石井さんと翠さんには、迷惑かけたので、もともと少しは無償で譲るつもりでたから。……石井さん、今財布の中大丈夫ですか?」
「…結構ヤバい」
「真白ちゃん、そんな事気にする必要ないわ」
「…石井さん、……本当すいません…」
「いいってことよ…」
真白は龍也には個人的に何かしようと決めた。それで、話しているうちに、今はまだ決めかねているので、取り敢えずこの件は保留にした。
「そうだ真白ちゃん! 明日はどうするの?
また一日中解体?」
「いえ、午前中だけで明日は終わりです。死体を冷却して死後硬直が解けるのを待つだけですから。……ただ、午後にあの人に呼ばれてるんですよ。……はぁ〜〜〜〜……行きたくない…」
「…も、もしかして」
「はい…明日、『光の癒し』のクランハウスに行って行ってきます……」
その時の真白の顔は、ものすごく嫌なそうな顔だった。
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