第12話  説得

 新宿ダンジョン64階層に来た真白は、さっそく階層ボスまで向かおうとすると————


「待ちなさい、真白!!」


 ————後ろから呼び止められる声がした。振り向くと、『暁月の彗星』のクラマスの翠さんにサブマスの翔さん、その他の幹部の人達、さらに佳織までいる。


「やっと追いついたわ、まさかもう64階層までいるとは思わなかったわ」

「結構早かったですね。それでご用件は何ですか?」

「あなたを止めに来たわ」

「止められる理由が有りませんが?」

「しらばっくれるつもり? あなた、65階層のレイドボスを倒すつもりでしょ。しかも一人で」

「…悪い事ですか? ダンジョン内での戦闘は全て自己責任のはずですが?」

「えぇ、確かにその通りよ。でもね、無謀と分かっていて、感情に流されている知り合いを見て見ぬふりはできないわ。だから止めに来たのよ」

「……止めないでください。私はもうやると決めたんです。だから邪魔しないでください」

「…本当にやる気みたいね」

「はい。だから私は意地でもやり———」

「いい加減やめてよ真白! どうしてアナタは変なことで頑固になるの!」

「…止めないで佳織。私はなにがなんでもやりたいの」

「……真白、…でも……でも(泣)! やっぱり無理だよ! いくら真白が強くたって、相手は深層のレイドボスよ! しかもの!」


 佳織の言うS級ダンジョンとは、ダンジョン協会が定めたそのダンジョンの難易度の階級である。下から順にE、D、C、B、A、S、SS、SSSの8階級ある。因みに私が主に活動してる横浜ダンジョンはA級ダンジョンだ。

 ダンジョン階級の基準は———

 E級…1〜20階層まで(ボスなし)

 D級…1〜39階層まで(レイドボスなし)

 C級…1〜59階層まで

 B級…60階層以上ある

 A級…最上層のモンスターの強さがC級ダンジョン中層クラス

 S級…ダンジョン内の環境変化が激しい

 SS級…環境と地形が劣悪で大型モンスターが多い

 SSS級…足を踏み入れるのさえ困難で攻略はほぼ不可能

 ———この様になっている。

 当然ダンジョンは下に行けば行くほどモンスターも強くなる。深層レイドボスなどそこら辺のモンスターとは次元が違う。かつて、深層レイドボスをソロ討伐した者はおらず、それでもB級ダンジョンだ。S級など不可能と言ってもいい。


「真白、幼馴染にここまで言われて、考え直さないの?」

「申し訳ないとは思ってます。…でも私は行きます」

「…しょうがないわ…ここは強引にでも止めるしかないよう————」


 (ピピピー! ピピピー!)


 翠さんが言い終える前に翠さんの携帯に着信があった。相手は———


「何の用龍也? 今手が離せないんだけど」


 ————龍也だった。


『あ、翠ちゃん。今どんな状況? 白ちゃん見つかった?』

「えぇ、でも今から全員で止めにかかる所よ」

『一人の少女を大人数で止めるって、恥ずかしくない?』

「それは相手が弱かったらの話よ」

『それもそうか! あっ! ビデオ通話にしてくれる。僕からも白ちゃんに訊きたい事があるから』


 翠は携帯をビデオ通話にして真白に見せる。


『白ちゃん聞こえるー?』

「石井さん、どうかしましたか?」

『いやー、翠ちゃんから白ちゃんが新宿ダンジョンのレイドボスをソロ討伐するて聴いて色々準備してたのさ。……で、白ちゃん。…本気なの?』

「はい」

『それは、白ちゃんにとって、…どうしても譲れないこと?』

「勿論です」

『………うん。…分かった。それなら俺は君を応援するよ』

「ちょっと! 龍也!! あなた自分が何言ってるか分かってるの!?」

『あぁ。…白ちゃん、君のことだから策はあるね?』

「はい。新しい武器防具の性能も良さそうです。切り札も有ります」

『OKー、分かった! それなら大丈夫そうだね! いざとなったらがいるから問題ないだろう』

「石井さん……ありがとうございます」

「ちょ! 二人で話し進めないでよ! 龍也あなた! 何後押ししてるのよ! てか、問題大有りよ!!」

『翠ちゃん、大丈夫だ。白ちゃんなら平気だ。根拠が無い訳じゃない』

「なんなのよ!? その根拠は!?」

『俺の口からは言えない。白ちゃんに秘密にしてと言われてる。……そうだ白ちゃん、俺からも条件があるんだけど』

「なんですか?」

『白ちゃんは戦うと周りに被害出るくらいやばいでしょ。だから何かあった時の為に待機要員が側にいないじゃん。だから自立魔導カメラで生配信しながら戦ってくれ。たぶん翠ちゃん持ってると思うから』

「…なるほど、石井さんはそうすれば、レイドボスエリアで何かあった場合、生配信で観てる翠さん達に助けに入ってもらう、のが建前で自分が観たい訳ですね?」

『流石白ちゃん! 俺のこと良く理解できてるじゃん! で、大丈夫かな?』

「問題ありません」

『だってさ翠ちゃん、ここまで来たら白ちゃんを信じてやれ。君の気持ちも分からなくはない。でも、この子はこうなったら止められない。だから近くで見守って、何かあったら助けてやれ、それがいい案だと俺は思うぜ』

「……はぁーーー。……納得はしてないけれど、そこまで言うなら分かったわ。…何かあった場合、力尽くでも止めに入るから」

「分かりました」


 こうして、妥協点が決まり———


「真白、ここからは私達も同行するわ。あなたはレイドボス戦まで体力をなるべく温存しておきなさい」

「すみません翠さん…有り難くお言葉に甘えます」

「はぁー……全員! 真白を中心に隊列を組むようにして! 佳織は真白の隣を歩くいるように!」


 ———翠の号令と共に全員が隊列を組む。流石大手クランのメンバー、行動が素早い。


『んじゃ、戦う前にまた連絡くれ』

「わかったわ……それでは、65階層レイドボスエリアまで進むわ!」


 こうして真白は、『暁月の彗星』の護衛の元65階層に向かうことになった。

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