第11話  真白の過去

 新宿ダンジョン深層63階層、真白は階層ボスのもとえ向かっている。そのボスと次の階のボスさえ倒せば65階層だ。

 ダンジョンのボスには階層ボスとレイドボスの2つある。階層ボスは次の層に行くための転移陣を守護するボスのことをいう。そしてレイドボスとは、5階層ごとに、何処かにある特殊エリアのボスのことだ。レイドボスの特徴はまず階層ボスの数倍でかく、そして強力なスキルを最低3つ以上持っている。しかし、これより厄介なのは、レイドボスはその階層から少なくとも10階層くらい下の階層ボスぐらいの力を持っているくらい、恐ろしく強いモンスターだ。だから最低60人〜70人で戦うのが当たり前である。

 しかし、メリットもあり。最初に倒した人は超良質のSSランク魔石とユニーク装備などがドロップし、多額のお金と栄誉が手に入れられる。それ以降のレイドボスは、最初より2、3割弱体化し、ドロップ品もそこそこの素材とAランク魔石であり、極稀にSランク魔石がドロップするぐらいである。だからどこのクランもレイドボスを倒そうと躍起になる。

 真白の兄、『賢也けんや』のクランもそうだった。


 真白の兄は『重騎士』のジョブをもつ探索者だった。当時、名の知れたクランのメンバーで、モンスターの攻撃から皆んなを守る大盾持ちの探索者だった。

 数年前、ここ新宿ダンジョンの到達最高記録66階層は、兄達のクランが叩き出し記録だ。昔から大好きだった賢也の武勇伝を聴いて育った真白は探索者に憧れがあり、自分も探索者になると決めていた。結果は錬金術師だったけど、生産で兄のサポートができるなら幸せだった。

 けど、突然その幸せは無くなった。真白がジョブを授かって半年頃、賢也達のクランは次の階層に行くのに攻めあぐねていた。そこで、65階層のレイドボスのドロップ品で戦力増強を考えた。無謀な策だけれど、やってみる価値はあると思い、クランメンバーのうち約90人で65階層レイドボスに挑んだ。しかし、S級ダンジョン深層のレイドボスの強さは、そこら辺のダンジョンの深層レイドボスとは、次元が違った。攻略に参加したメンバーのうち約50人が死亡、約30人が重軽傷に陥り敗走した。その中に賢也の姿は無かった。この攻略失敗でクランの主要人物は皆死亡し、残りのメンバーも引退する人が多くクランは解散した。

 後日、攻略に参加していた人が真白に賢也の事を教えた。賢也は敗走した人達の逃げる時間を稼ぐために、たった一人でモンスターと戦ったと。

 真白はすごく悲しかったけど、いつも優しくて何かあったら助けて守ってくれる、大好きな兄らしと思った。

 けど、悲し気持ちは忘れられない。

 真白はソロでダンジョンに潜るようになって初めて階層ボスと戦った時、死に掛け寸前まで行った。初めは様子見程度で済ますつもりが、逃げられないほど追い詰められた。まぁ、当時の真白は中学生でしかも生産職の中で不遇な錬金術師だ。ソロで挑めばこうなる事くらい当たり前である。無謀な事だったて事は初めから分かっていた、いざ死を直前にすると怖かった。

 普通この状況になれば誰でも、死の恐怖か覚悟をする所だが——


      『“死んでたまるか”』


 ——もうそれは意地というか執念だった。真白は兎に角ここで死にたく無かった。負けたくなかった。生きたいと強く強くより強くそう思って戦った。

 そしたら、真白の中で何かが覚醒した。

 さっきまで追い詰められていたはずが、立場が逆転した。相手の動きと魔力や弱点、周りの状況やら色々なものが見えた。そんな不思議な感覚の中、気づいたら真白はボスを倒していた。何が何だか解らないまま、放心していると、頭の中に、————【真理の天眼】————そのスキルが浮かんだ。

 何故だか解っていないが探索者は自分の持っているスキルが頭の中に勝手に想い浮かぶ、だからその時真白は、新しいスキルを手に入れたのを理解した。

 【真理の天眼】は想像以上にとんでもないスキルだった。まず、物の魔力を見ることができ、その質や量、流れを理解できた。そして物質だけに関わらず生物や物理法則の動きを魔力の流れを通して予測することができる。それに何よりも、生産作業で最高の品質のアイテムを魔力見て効率よく作れるようになった。

 それからは、このスキルで自分の装備の製作に強化、モンスターの弱点などを見ながら攻略が進んだ、翠や龍也達とも知り合ってから、収入源が潤い高品質の素材も手に入りやすくなった。そんでもって、より強くなるためにアイテム、武器防具をたくさん作った。身体も鍛えた。

 そして、この日を迎えた。もし、真白がより強い戦う力を手にしたら、一番最初に倒してやる因縁のモンスター。兄を奪ったヤツは許さない。無謀だと言われても意地でもやる。そのために力をつけた。それに真白は切り札やも持っているので大丈夫だと思っている。

 『暁月の彗星』の攻略動画を見て覚えたルートどうりに進むと、階層ボスのエリアまで来た。


「…ふぅ〜、やっと着いた。…さて、新装備のテストも兼ねてるか」


 新宿ダンジョン63階層ボス『ダークシャドーサーベルタイガー』、漆黒の毛に鋭い眼光を持った虎である。上顎の犬歯が太くて長いミスリルでできており、自身の機動力を活かしてその顎力で噛みつき、時には闇魔法で攻撃や回避、奇襲や拘束もしてくる、そして何より魔法防御力が異常に高いモンスターである。ただし、物理防御力は低くて魔法を使われないように接近戦で戦うのがセオリーだ。


「魔力銃じゃ勝ち目は無い、だから通常の銃と新型銃を『貫通強化・極』を付与した弾丸で遠距離攻撃しますか。今回は素材はどうでもいいから、サクッと倒そう」


 右に通常銃、左に新型銃を持ち、真白は戦闘体制に入る。

 先手必勝、真白はまず通常銃で眉間を狙う。ただし相手に躱される。この時点で相手の機動力がどのくらいなのか真白は把握し、戦略を練る。


「『飛翔』! それ!」


 バン! バン!


 真白は突っ込んで来た相手にグリーブに付与したスキル『飛翔』で上を取り弾を撃った。

 しかし、相手は闇魔法の『シャドーダイブ』で影の中に身を隠す。


「隠れた……ッ! 後ろ!」


 真白は魔力の流れを見て、後ろの地面の影から跳び出てきた相手の攻撃を、右側の空中を踏み横に跳んで回避した。

 『飛翔』は空中を歩くように移動できるが空を飛ぶような機動力はなく、移動する時は行きたい方向とは逆の空中を蹴る必要がある。

 それからはお互いの攻防の繰り返しだった。ここまでの戦闘で、相手は機動力と影の中にで回避して、闇魔法で攻撃や拘束をして噛み付く動きをする。真白は上を取れる有利と魔力の流れを見る事で回避と攻撃を繰り返し、戦いは、ほぼ互角だった。


「ここまでは互角だね。あっちは動きのパターンは同じだし、もう手札が無いのかも…だったらこの子の番!」


 真白が構えた新型銃『レールガン電磁加速銃』。これは、銃の中の雷属性の魔石に魔力を流し、中の弾丸を超高速回転させて撃つ銃だ。真白が兄の遺産のラノベで某主人公がメインに使ってた物を参考にした武器である。


「これでどうだ!」


 ズバン‼︎


 弾丸は音速以上の速度で撃ち出され、相手が反応することも出来ず、頭が撃ち抜かれた。

 そして、戦闘が終わりドロップ品が落ちた。


「うん! 『レールガン』は予想以上の威力と速度だったね! さて、さっさと次の階層に向かおう」


 戦闘を終えた真白は、ドロップ品をしまい、64階層に向かった。

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