第10話  翠の焦りと龍也の心境

 龍也は今、耳元で叫ぶ翠の声を電話で聴いている。


「…なあ、何の冗談だ?」

『こんな事冗談で言うわけないでしょ!』

「…だよな。…そっかー白ちゃん…なんかここんとこ様子がおかしいと思っていたけど。まさかこんな大事だとは思わなかったぜ」

『真白はかなり強いかもしれないけど、一人でレイドボスなんて、頭どうかしてるわよ!!』

「少し落ち着け翠ちゃん。俺も内心驚いてる。叫んでいても白ちゃんはもう新宿にいるんだろ。そしたらもうダンジョンに入ってるかもしれないぞ」

『お落ち着いてなんかいられるわけないでしょ! まだあの子高校生なのよ! 何かあったらどうするのよ!?』

「わかってる。だからこっちも今から急いで準備する。白ちゃんには恩がある。もしものことがあったら、やなのは同じだからな……」

『なら急いでちょうだい! てか、あんたさっきから何であなた終始落ち着いた感じでいるのよ!!』

「いや、本当に驚いてるぜ。…けど……もしかしたら白ちゃんなら、何とかなるかもしれないと思ってな」

「何を根拠にそんな事言ってるのよ! 兎に角こっちは準備が整い次第新宿に向かうわ。そっちも急いでちょうだい! じゃあ、切るわね」 


————————


〈龍也視点〉


「はぁーー、白ちゃん…流石に無謀だぜ。せめて俺にくらい相談してくれても……いや…」


 龍也はそこで気づく。


「白ちゃんは最初からそのつもりだったのかな、お兄さんの敵討ちのために…」


 真白の過去の境遇を知る身としては、生産職とはいえ龍也はクランマスターだ。翠と同じで一時的な感情で挑んでもらいたくない。しかし龍也は————


「もしかしたら、あの子ならやってくれるかもしれないな…」


 ————そんな期待する気持ちに胸の中がうずく。


「さて、……(カチ)—『この館内放送を聞いてるいる全幹部役員に告ぐ、大至急俺の執務室に来てくれ、緊急依頼が発生した。繰り返す、緊急依頼が発生した。全幹部役員は大至急執務室来てくれ』………白ちゃん、もし君が本当に譲れない事なら、俺だけは応援するよ…だからこの目で見せてくれよ……史上最強の錬金術師の勇姿を!」


 その時の龍也の目は、憧れと羨望の眼差しであった。

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