第8話  『生産組合』の石井龍也

〈龍也視点〉


 今回、真白が装備の広告塔を引き受けてくれてた事に龍也は感謝している。凝ったデザインの装備は前々から考えていたが、ほとんどの探索者はまず性能第一に決める。態々凝ったデザインの装備を造っても見た目に反して性能がダメなものが多い。だからどうしてもシンプルな防具を作るとになる。

 しかしここ数年、真白のおかげでクランが父の代より発展している。

 『生産組合』はもともと龍也の父が生産職の必要性を主張するために立ち上げた。しかし、もう歳のせいか息子の龍也にクランを任せて現役を引いた。龍也も最初は戸惑ったがこうなるだろうと思っていたため焦りはあまりしなかった。父は生産職の必要性を探索者達に理解してもらう事に力を入れたが、今では昔に比べてまともになった。そのため龍也は生産職の技術向上に力を入れたが、難しかった。生産職も製作する時、個人個人やり方とイメージがあるみたいだ。

 そんなある日、よくうちを贔屓にしてくれている『暁月の彗星』の翠から、面白い生産職がいると言われて紹介されたのが真白である。錬金術師と聴いていたが、翠の紹介なので龍也は会ってみる事にした。

 当時まだ中学生の真白だが、アイテム製作してる所を見て龍也は驚愕した。これが錬金術師なのかと。本職よりも性能のいい武器やポーション、他にもすごいアイテムの数々。錬金術師に対する常識がすぐ崩れ去った。しかし追い討ちをかけるように、自分でダンジョンに潜り素材を集めているみたいだ。もう何から突っ込んでいいのか全くわからなかった。戦闘面でも、当時から『暁月の彗星』の中で実力が1つ2つずば抜けてる翠が自分より強いかもしれないというほどだ。だから直ぐに勧誘してみた。

 けれど断られた。詳しく聞いてみると、周りと上手く関わるのが苦手らしく自分のペースでしか行動できないらしい。それに、自分が自由に生産作業ができる今の環境がやりやすいらしい。

 戦闘職も生産職も同じ探索者だ、気の持ちようでかなり変わる。だから龍也は無理な勧誘はせず、程よい距離感で友好的に関わる事にした。

 真白との関係を持って驚いたのがまず知識と発想だった。それは理論的に素材によってどのような加工をすれば良いアイテムができるかというの知識と固定観念に囚われず思いついたアイテムをその知識を生かして試行錯誤して作るところだ。

 主に、スキルオーブと転送陣がそれだ、スキルオーブは真白独自の特殊な加工をし、魔石の質やランクによってスキルを付与したもの。これを使えば物にもよるが、武器防具にランクの低いスキルが簡単に付与にでき、何よりも探索者自身もそれを使えばそのスキルが手に入るということだ。龍也は真白に委託販売しないかと話しを持ちかけた。そして心よく引き受けくれた。その時に売り上げの分配は、魔石代、作業料、付与するスキルの難易度などを鑑みて売り上げの8割を真白に払う事になった。中学生なのに交渉がうますぎると思った。でも元は取れると思った。

 そして、スキルオーブは爆発的に売れた! それは、海外の探索者も購入するほどだ。スキルは経験によって後天的に身につくものだが、それを買ってすぐに手に入れられる。けれど、やはり戦闘職は戦闘系、生産職は生産系のスキルしか手に入れられず、魔石の質が高いスキルは手に入りずらく高確率で失敗する。まぁ博打みたいな物である。けど、それを踏まえても人気な商品だ、今ではクランの売り上げに最も貢献してくれているアイテムだ。その他のアイテムもいい性能と機能の物を販売してもらっている。例外なのは転送陣のようなとんでもないやつは、流石に信頼できる人にしか渡せないらしい。

 真白のおかげで、うちのクランはさらに発言力を増し、レア度の低いスキルオーブはお抱えの錬金術師でも生産できるようになり、知識方面で生産者全体の技術向上ができた。

 そんな龍也は、信頼してくれてる真白のお願いや注文は優先的(私情)に受け付けている。


「ふぅー。今回も依頼が殺到するかなー。まぁ白ちゃんと翠ちゃんが深層で戦ってくれればいい宣伝になるだろうな」


 龍也は真白だけでなく、翠もかってに宣伝対象にする事にした。

 後日、この事を知った翠から、モンスターの素材を通常より高く売り付けられる(強制)事をまだ知らない。


「けど白ちゃん、なんだかいつもより早めに欲しがってたな? いつもなら、どんなに早く完成させたくても、先に入った他の依頼や注文を優先するようにて言うのに。……何かあるのかな?」


 幼馴染の佳織を除き、一番真白と交流のある龍也は、真白の様子に疑問を思った。

 そして、この疑問の答えは全世界を巻き込むほどのものである事を誰が予想できるだう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る