第七十三話 戦略機動艦隊総司令部

 戦略機動艦隊総司令部作戦会議室。

 そこに司令長官ザウアー元帥以下十二人の艦隊司令官と二十人を超すその他の将官達が集まっている。


 会議の中央に座しているのは当然ながらザウアー元帥。そしてその左右に二人の四十代の中将。

 ザウアー元帥の懐刀と目されているヒルデベルト・ヴァイス提督とエルマー・ディークマン提督だった。


 帝国の一個戦略機動艦隊の定数は通常千五百隻から二千隻だが、第一艦隊だけは例外的に千五百隻の本隊と一千隻の分艦隊二つの三千五百隻で編成されている。


 その二つの分艦隊の司令官がこの二人の提督だ。

 どちらもまだ佐官だった頃にザウアー元帥に評価され、第一艦隊に引き抜かれたと言う経歴の持ち主で、分艦隊司令ながら戦略機動艦隊内での序列は他の艦隊司令達と同等以上になっている。


 ヴァイス提督は垂れ目が印象的な一見すれば人の好さそうな顔をした大柄な男性。

 ディークマン提督の方は逆に冷たい印象を受けるハンサムで細身の男性だった。


 能力は……

 ヴァイス提督


 統率84 戦略75 政治33

 運営39 情報57 機動76

 攻撃93 防御75 陸戦73

 空戦84 白兵71 魅力77


 ディークマン提督


 統率82 戦略76 政治31

 運営28 情報58 機動78

 攻撃91 防御79 陸戦75

 空戦75 白兵73 魅力79


 うーん、さすがザウアー元帥の腹心だけあってどちらも強い。


 前世での帝国の内戦でもザウアー元帥の指揮の下、カシーク提督やジウナー提督相手に奮戦する実力を見せていた。

 惜しむらくはどっちもぷちザウアー元帥とも言うような能力で、元帥が苦手としてる戦略や政治の分野を補ってくれるような能力じゃない事だろうか。


 そしてザウアー元帥の反対側に座っているのが戦略機動艦隊副司令長官マインラート・フォン・パッツドルフ上級大将。


 決してスマートな体躯とは言えないがそれでも引き締まった印象のあるザウアー元帥と比べれば、全体的に丸っこくお世辞にも軍人らしい見た目とは言えない老年に入り始めた男性だ。

 慣例と化した要職人事だけで副司令長官になった人物で、実戦はもちろん、後方実務での功績もほとんどない。

 本人も今まではお飾りに徹していて、会議などで積極的な発言をした事もほとんどなかったが、今回はフライリヒート公爵の意を受けてかなり熱心に大規模な出兵を主張したらしい。


 統率45 戦略66 政治61

 運営39 情報35 機動32

 攻撃38 防御42 陸戦31

 空戦35 白兵40 魅力75


 まあ能力はだいたいお察しの通り。


 そして他に集まった提督達は私、ティーネ、カシーク提督、ジウナー提督を含めて十人。


 第一艦隊司令、ヴァルター・フォン・ザウアー戦略機動艦隊司令長官が兼任。

 第二艦隊司令、マインラート・フォン・パッツドルフ戦略機動艦隊副司令長官が兼任。

 第四艦隊司令、私。

 第五艦隊司令、ヴァーツラフ・フォン・カシーク中将。

 第七艦隊司令、クレメンティーネ・フォン・エーベルス方面司令官が兼任。

 第九艦隊司令、ラダ・ジウナー中将。

 第十艦隊司令、ホルスト・フォン・バッハ中将。

 第十一艦隊司令、オリヴァー・リッチュル中将。

 第十三艦隊司令、ハルトムート・フォン・シャウムブルク中将。

 第十四艦隊司令、デニス・フォン・ツェルナー中将。

 第十五艦隊司令、フォルクハルト・フォン・レッシュ中将。

 第十六艦隊司令、バルトロメウス・フォン・シュタムラー中将。


 第八、第十二、第十七、第十八の四個艦隊は現在前線の星系で駐留任務に当たっているため、今帝国で動かせる残り全ての戦略機動艦隊の司令官がここに集まった事になる。


 ステータス的にはやはり全体的に中央艦隊の提督はそれなりに優秀で貴族艦隊の提督達は残念だが……敢えて特筆するほどに優秀な人間はティーネ達三人以外にはいないようだ。


 他に戦略機動艦隊総司令部や統合参謀総監部の幕僚も数多く会議に参加している。


「今回の会議の目的はツェトデーエフ三星系への侵攻作戦についての協議である」


 ザウアー元帥が口を開いた。


「今日の天気を話題にしてすら部下を委縮させる」と陰で半ば冗談のようにささやかれるほど普段は常に威厳が溢れているザウアー元帥だったけど、今日は心なしか声にも表情にも力が無い。


 ここ数日繰り広げられたフロイント元帥との政治的駆け引きで精神的に疲弊しているのかもしれなかった。

 このおじいちゃん戦場では物凄く強いけど根回しとか談合とかは一切出来ないししないからな……


「我が第一艦隊を除く十一個艦隊で帝国統合艦隊が編成される事となる。統合艦隊総司令官はパッツドルフ上級大将」


 居並ぶ提督達の間から軽くざわめきが起きた。


 帝国統合艦隊の編成だけでも五年ぶり。十個艦隊を超す規模での作戦ともなれば前回は二十年以上前の事となる。

 それだけの大規模な作戦と言うだけでも中々平静ではいられないだろうに、それを率いるのが統率能力に関しては絶大の信頼を置かれるザウアー元帥ではなく飾り物指揮官のパッツドルフ上級大将では歴戦の提督達も一抹の不安を感じざるを得ないらしい。


……貴族艦隊の提督達の中にはそんな不安など微塵も感じていないようで、吞気に作戦の規模に目を輝かせているっぽい人も何人かいるけど(ダメだこりゃ)。


「総参謀長はアクス大将が務める」


 ざわめきを起こす場の人間を一睨みしてからザウアー元帥が付け足した。


 戦略機動艦隊総参謀長のカールハインツ・アクス大将が一礼する。

 参謀職一筋に生きて来た生粋の軍人で、ザウアー元帥ほど筋金入りでは無い物の、帝国の高級軍人としてはまず良識派に入ると言う評価を受けている人間だ。


 統率68 戦略84 政治91

 運営95 情報85 機動63

 攻撃71 防御80 陸戦37

 空戦50 白兵67 魅力62


 確かに参謀としてはかなり優秀なんだろうけど……総司令官がこれじゃあねえ……


 それでも参謀長は当たりを引いた、と言わんばかりの安堵の息が場からかすかに漏れた。


 さらにその他の主要な幕僚が発表されて行く……その中には作戦参謀として統合参謀総監部から出向してきたあのフレンツェン大佐の名前もあった。

 思わず場を見回すと、端の方の席にあの陰気そうな顔が見える……今度は何を企んでいる事やら。

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