第4話びしょ濡れの少女 玲奈④

古くて大きな年代物の置き時計の振り子が、午後4時を打った。

俊が、玲奈に会釈した。

「これから仕事だよ」


「あ・・・はい」

玲奈が少し頭を下げると、俊は、カウンターを出て、ピアノの前に。

いろいろな楽譜を揃え始めている。


ママが、玲奈に説明する。

「この店は、午後4時に営業開始」

「だから、俊君の演奏も、午後4時から始まる」

「何を弾くのか、俊君任せだよ」


玲奈が頷くと、ママは続けた。

「それと、雨も酷い、泊っていったら?」

玲奈は、驚いた。

「え・・・いいんですか?」


桜が玲奈の背中を軽く叩いた。

「ストーカーも怖いでしょ?」

「上の階が、シェアハウスになっていて、3部屋空いているよ」

「ちなみに、俊君も、私も住んでいるの」

「しばらく、ほとぼりが冷めるまで、ここに住んだら?」


ママは、少し笑った。

「そもそも、俊君のおじいさんがオーナーだよ」

「俊君が相続人、私が管理人」

「もし、ここの店を手伝ってくれたら、家賃はオフでいいよ」


玲奈は、迷わなかった。

「わかりました、お願いしようかな」

ママが条件をつけた。

「料理は教えます、手伝ってね」

「ただ、俊君には、惚れないように」

「ライバルが多いから、難しいよ」


玲奈が、目を丸くしていると、店のドアが開いて、早くも十数人の客。

それを見て、俊がピアノを弾き始めた。

ワーグナーのタンホイザー序曲のピアノ編曲版。


「あ・・・これ・・・好き・・・」

玲奈の顔色が、すっかり明るくなった。

そのまま、聞き惚れている感じ。


ママも笑顔。

「いいわね、ずっと聴いちゃう」

「聴き飽きないの、これ、ロマンチックで、いい感じ」


桜は、演奏に邪魔にならないように、接客を始めた。

(注文を取り始めた)


玲奈は、残念ながら、手伝えない。

(雨に濡れ、ジャージの上下なので、少しためらった)


ママが、玲奈に耳打ち。

「さっきの控室に、制服があるの」


玲奈は、迷わなかった。

明るい声で

「はい!」


椅子から飛び降り気味、控室に小走り。

(制服に着替えて、そのまま、接客を始めている)

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