第3話びしょ濡れの少女 玲奈③

甘酒を飲み終えたと思ったら、熱いローズヒップになった。

玲奈は「ありがとうございます」と少し飲んで、「美味しい」と、笑う。

(泣いて、いろいろ話して、スマホを見せて、気持ちの温度と湿度が楽になったような顔)


俊が、いきなり話題を変えた。

「玲奈さんは、ありえない話を信じるタイプかな?」


玲奈は、「え?」と首を傾げた。(丸い目になっている)

「ありえないって・・・ここで、なぞなぞですか?」

「すぐには、思いつきません」


俊は、少し笑って「ありえないこと」の「例」を示した。

「例えば、亭主の文句を言わない嫁が、この世にいなくなった状態」


玲奈の目がキョトンとなったのを見て、俊は続けた。

「女子高生のミニスカートを見たくない高校生男子が、一人もいない世界」


玲奈の顏が変わった。(少し笑った)

「えっと・・・確かにありえないかな・・・」

「でも、何で、その話に?」


俊は、また、話題を変えた。

「玲奈さんが近所を散歩しているとして」


玲奈は俊の顏を見た。


「犬が吠えたとするよね」


玲奈は素直になって来た。

「はい、たまには、あるかな、そういうこと」

俊は玲奈に聞いた。

「腹が立つ?気にする?その犬に、ずっと、いつまでも」

玲奈は首を横に振った。

「その家を過ぎれば、全く」

「気にする方がおかしいかと」

「人が通って吠えない犬もいるかな・・・番犬にはならないか」

玲奈は、笑った。

「それは・・・そうですよね、吠えるのが番犬ですから」

「吠えない犬が一匹もいない世界も、ありえないかな」

玲奈

「そうですよね、うん」

「犬に吠えられて、一日悩む人はいる?」

玲奈

「・・・いるのかな・・・でも、滅多に・・・ありえないかと」


俊は、話をまとめはじめた。


「世の中に、文句を言わない人はいない」

「中傷、嫉妬、嘘のない世界もないよ」

「根絶もできると思わない」

「人間の本性みたいなもので」

「だから、ありえない」

「ありえないことを、懸命に気にしても、しょうがないかな」


玲奈は、「あっ!」と小さな声をあげた。

「俊さん・・・もしかして?」


俊は、真面目な顔で、文句を言い始めた。

「こういうのは、ただの落書き、誰も責任を取らされないから書けるだけ」

「絶対に本人の面前では言わない、責任取らされたり、侮辱罪になったりするし」

「そこまでの勇気がない、虫けら連中、犬にも劣る」

「責任を取らされれば、絶対に書けない、だから匿名、偽名、SNS用の名前」

「本人名では言えない、そんな度胸がない、小心者集団」

「そもそも相手がわからないことを利用した、無責任集団」

「気にするだけ、馬鹿馬鹿しい、」

「それを気にするから・・・あ・・・くどいかな」

「要するに、ありえないことを、気にする必要も義務もない」


玲奈は、ストンと肩の力が抜けたような顔になっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る